【祀未世、14歳。無期執行猶予死刑囚】  残虐かつ衝撃的なオープニングから始まる今作は、単なるサスペンス小説やホラー・スリラーとは一線を画す、上質のディストピア小説として成立しています。  最近も名古屋の女子大学生による女性殺人事件、少し前は長崎県佐世保市で(年月を置いて)二人の少女が「ただ、とにかく人をあやめてみたかった」という理由だけで、凶悪犯罪により同級生の命を奪っています。  奇遇ではありますが、全ての少女たちは自分のことを「僕」と言っていた一致点も。 (ちなみに、今作『僕は死刑囚』が書かれたのは現実世界の事件より前なので、鳥肌と震えが止まりません)  見事な世界観の確立。人口減少、司法の法的措置など極めてリーダビリティーが高いのに、RCOや貧民街とそこに暮らす人々の「生きる」姿が、一方の「生命を奪う」側と実は裏表一体・補完関係にある真理を、読者は知ることになるのです。  具体的に書くとネタバレになってしまうのですが、リドリー・スコット監督の名作SF映画『ブレードランナー』を好むファンであれば、今作にも衝撃と感動を覚えることでしょう。  そう、前半の加虐的な描写や祀未世のアンチ・ヒロイン像が、サトシとの出会い~後半部分で明らかになる真実を経て、180度印象が変わるのが、最大の醍醐味だと私は思います。    法や正義、そして「生命の倫理観」といったものは、考えてみれば一方的な「図式化されたモラル」なのかも知れません。 「ねえ、どうしてひとをころしたらいけないの?」と無邪気な顔をした少女が問い掛けるとき、大人ははっきりと答えることが出来るのか?  薄っぺらい自信は、極めて心許ないものがあるのです。  惜しむらくは、BB作戦など(特に後半)説明頼りになっている箇所が多く、若干全体的なストーリーテリングのバランスが勿体無かったのですが、ちょっと編集するだけで十分クリア出来るはずです。 (電子書籍大賞の最終候補作品だけあって、かなりのレベルの高さを窺い知ることが出来ます)  ラストシーンで「ある名付けられ方をした」人物の姿にスポットが当たります。  注意深い読者なら気付くのですが、前半の微笑ましい未世とサトシの何気ない会話と完璧な呼応を成しているのです!上手いなあ……  素晴らしい作品、ありがとうございます!
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『僕は死刑囚』にとても素晴らしいレビューをありがとうございます! 丁寧かつ的確で大変驚いています。 そして大変褒めて頂き恐縮です。 この作品で伝えたかったことは「愛」、そして「人を殺してはいけない」という人としての原理原則でした。 なぜ殺してはいけないか。 それを許してしまうと果てしない殺し合いになるからです。 残念なことに現実世界では愚かな行為が繰り返されています。 人を殺しても自分は殺されないと考えるならおめでたい頭です。 昨今目を覆うような少女による陰惨な事件が多いです。 みなさん第一人称が「僕」なんですね。(そこまで詳しくないので知りませんでした) 未世にはモデルがいます。(母親を
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 こにしさん、ご丁寧にお返事をありがとうございます!(^O^)  人が人を殺してはならない=他者の生命と権利を尊重する。という観念がない世界では、人権も平和主義も、民主主義も道徳も、そして何より「愛」すらも否定される混沌とした世界になると思います。  今作のヒロインのモデルということで、僕が思い出したのは「母親にタリウムなどの劇物を投与し続けた少女」ですが、彼女もそういった当たり前の・しかし人間が生きとし生ける上で、最も大切なことを分からなかったのでしょうね。  最愛の人に「出会う」ことによってのみ、知ることが出来た愛は、自らの生命が奪う・奪われるという極限において意味を成したのだから、
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