同じ作者様の『DO BRASS!!』と共通のファクター(吹奏楽、ローカルなコミュニティの存在、そこに生きる人々の暮らしと息づかい)を用いながら、全く違う世界観を構築しているのが今作です。  それはなぜか? 『潮風♪アンサンブル』作中では《吹奏楽》以外の、二つの大切なものが失われているためです。  日本人にとって、特にリアス式海岸を持ち、そこからの恵みによって「海と共に生きて来た」三陸・東北地方太平洋沖沿岸の人々にとっては、あの大津波を「見たくなかった・体験したくなかった」そして、「知ることなく一生を終えたかった」はずです。  実際、作中ではそのことがはっきりと言及されています。  共同体というものは、得てして楽団・オーケストラの奏でるアンサンブルと非常に似ています。音があり、声があり、そこに笑顔や泣き顔がある。  誰かを好きになる、部活動を頑張る、告白する、フラれる、また誰かを好きになる。  3.11が発生した時、そんな日常のアンサンブルは、濁流のディスコードによってかき消されてしまいました。当たり前にあったはずのものは、決してそうではなかった。  この作品で一番僕が高く評価したいのは《あの瞬間》を一切描いていない。  だからこそ、一層生々しく「当事者の視点」が生きているのだと思うのです。  多くの葉月が、美咲が、昴洋が、東北地方太平洋沖の港町に生きていて、あの同じ時間を過ごしていたのだと思うと、感慨もひとしおです。  オープニングの桜が持つ意味合い(春に始まり、2011年の春を経て、現在・2015年の春にこの物語を読んでいる)にまで気が付く、作者様の力量をたたえたいと思います。   

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