東野 遥汰

最初は表紙からライトノベルなのかなと思っていましたが、「僕は十八の頃、トマトのあしらわれた杖を買った。それは吉祥寺にある小さな雑貨屋でのことだった」という書き出しで幕が開けるこの作品からは純文学のような匂いを感じました。読み応え十分でした。 この最初の杖を買った吉祥寺の町も最後に大きなカギを握ることになるとは思いませんでした。冒頭の展開は全く表紙と関係のないように見せていたので、少し疑問に思うところだったのですが、最後の最後に一気に表紙の意味が分かりました。期待して最後まで読み続けて正解でした。 さらにその中で一番圧巻だったのは、最後の最後で「僕」が「君」へ向けて放つ一言!この小説の締めとしてはこれ以上のものはないのではないでしょうか。お野菜帝国の野望を暴いた後ということもあって、重みも一段と増していますね。 文中で会話をするのが「僕」と「君」だけというのも面白いです。お野菜だから……という理由では片づけられない深い理由がありましたが、私は最後までまったくわかりませんでした。 とにかく不思議な世界観です。異世界に現世界がスパイスのように絡んでいく、このような世界を描けるのはこの作者さんの右に出る者はいませんね。僕の現世の記憶が常に物語に影響を与えていく様は彼の自分探しの旅のような気がしてなりませんでした。 やっと帰ることができた二人が実は野菜だったという件については、読者の中でも意見が分かれるところのようです。私は一種のメタファーとして用いられたのであって、本当に二人が野菜だったのかどうかは確信が持てません。きっとこの後に読む方が見解をしめしてくれるのではないでしょうか。 素敵な物語をありがとうございました!(★)
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