初めてこの作品を読んだのが何時だったか、僕にはもう思い出せない。  もっともそれでよかったのだろう。結果として僕は、その時の感情を今一度思い出すことが出来た。  尋常ならざる語彙に裏打ちされた文章は、男の動作に現れるように、流麗にして無駄がない。故に様相は苛烈である。それは言わば研ぎ澄まされた剣だ。それも手先を狂わせたら最後、自身へと降りかかる両刃の剣。鼻をくすぐる鉄の匂い。この小説は、断言してもいい。間違いなく血が滲んでいる。  その乾坤一擲の一撃を悉く被弾しながら、漸く僕は思い出す。言霊へと昇華した文章を一心不乱に貪りながら、僕は遠大なわけのわからないもの――例えば文学を睥睨し、畏怖するものは決してなく、ただただ打ち破らんと駆けた、あの頃のことを思い出した。

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