色部耀

 夏祭りが一転。そこは地獄絵図へと変わる。  もしあなたが読書家であるならば、今すぐブラウザバックしてこのレビューを見なかった事にするべきだ。なぜなら私は今からこの作品で得た感動の全てをここに記そうとしているからである。  一言で言えば伝説――  戦争小説の始まりであり終わりと称するにふさわしい作品だ。初めは只の超能力SFだとばかり思っていたが、過去に戻れるのだとしたらその時の自分を指差して笑うだろう。そんなに浅い作品ではないと。  命とは何なのか。戦争とはどれほど虚しいものなのか。作中に出てくる超能力の原点。この作品に出てくるそれらを読んで、私はふと哲学者三木清の言葉を思い出した。 『生命とは虚無を掻き集める力である。それは虚無からの形成力である。虚無を掻き集めて形作られたものは虚無ではない』  著者ルイジアナ氏も意識の内には有ったのかもしれない。だからこそ全体の90%以上が水分であり、世界一栄養の無い野菜と謳われた胡瓜をタイトルに使い、作中に使い、クライマックスで使ったのだろう。それこそこの推察が箸にも棒にもかかっていないのだとすれば、私は一生の笑いものかもしれないが。  さて、今まで哲学的な魅力について語らせてもらっていたが、この作品の醍醐味はそこだけではない。それは息を飲む戦闘シーン。臨場感あふれる戦場での命のやりとりから加速する世界観。9.80665 m / s2で物語の中の中まで吸い込まれる。  紛れもなく私は皆と共に爆炎轟く戦場に立っていた。  肌に刺さるような描写力は思えば圧巻の一言でしかなかっただろう。曖昧な言い方しかできないのは文字を追っているはずの自分に読者という感覚すらなかったからだ。こんなに引き込まれたことは無い。  物語についてはそれ以上語るべくもないだろうが、最後に一つだけ書き記したい。私が感動し涙し、全身の毛穴という毛穴がスタンディングオベーションをした瞬間の話を。  クライマックスで主人公が言う台詞。 「今のお前なんて、水分の無いきゅうりみたいなもんだよ」  張り巡らせた伏線からのタイトル回収。その瞬間、もう私は作家を辞めようと思ってしまった。 (★)
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