あーる

寒風吹くガード下。ホワンと浮かび上がるように屋台が視界に入る。別々の道を歩いていた二人が、そんな『運命』の屋台に引き寄せられるように立ち寄り交差した時、新しい道は拓かれ、その道を二人は手を取り共に歩き始める……読み終わりにそんな情景が目に浮かぶ物語でした。 何故かわからないけれど、すごく気になる、惹かれる。たまらなく愛おしく思う。そういう物や事に遭遇することってありますよね。 根拠の無いただの感覚かもしれない。でも実はそれには意味や深層的な理由があるものかも…とも思ったりします。 自分の存在価値を見失っていた静谷君にとって、麻木さんの家具が正にそれだった。 それを手元に置いた時から、静谷君の中には、麻木さんの感性が息づき、生きる意味になったのだろうと思いました。そして、電話越しの声だけのやり取りも然り。麻木さんの持つ気質が心の深いところに響いたのだと思います。最初は顔も知らない二人。だから、表面的な繋がりではなく、もっと深いところで繋がった…そう感じました。 でも、そんな家具を創り出した麻木さんも完璧ではない、悩める一人のひとだった。 創作することは「自分」を注ぎ込む作業なのでしょうね。苦い出来事で創作に心傾けるこが出来なくなってしまった麻木さん。 人の心の機微に聡く、不安定で脆い。でも踏ん張って毎日を健気に生きている。そして、こんな自分を『神様みたいな人だ』と言う。そんな静谷君を目の前に、どこか欠けてしまった感情が再生された麻木さんの小さな願い。 ……どうか、伝わって。 と私も強く願ってしまいました。 顔をつき合わせたのは二回目。なのに、もうこんなにも深く理解しあっているのは、創作家具を通して、三年に渡る声だけのやり取りを通して、きっと二人はすでに特別な存在になっていたのだと思いました。 読み返せば、どんどんお話の中の二人の時間が広がり奥行きを感じられます。あの時のあの一言は、行動は、反応は……と気づき、二人のこれからに繋がっていたのだな。と思いました。 人は皆、誰かに何かに支えられ励まされて生きている。そんな当たり前な事を改めて感じ、最後にじんわりと目尻に涙が滲みました。 静かに、淡々と、心にしみる素敵なお話です。
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あーるさん素敵なレビューをありがとうございます! 「人は皆、誰かに何かに支えられ励まされて生きている」 そうなんですよね! 誰かに支えられ、誰かを支えて生きてる。人はひとりでは生きていけない生物だと常々思っています。それは物理的な(衣食住)問題や、健康面の問題ではなくて「存在の肯定」が必要だから。 「ありがとう」「助かった」「あなたの笑顔に元気をもらってる」などの言葉は「あなたがいて良かった」という存在の肯定なんですよね。いくら健康でも裕福でも、誰からも必要とされず、誰からも「ありがとう」と言葉を掛けてもらえない人は孤独で徐々に心が死んでしまいます。だからなるべく私は多くの人に「ありがとう
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