あーる

『、』に、様々な情景、感情が潜んでいる。そう感じてしまうタイトルにまず惹き込まれました。 『、したい。』『、されたい。』…… 章タイトルもまたふたりの微妙な関係性が垣間見られ、心動かされます。 そして、一史さんの「晴人さん。」という呼び掛け。時にひらがなで、時に「、」を挟んで……その声だけで、一史さんが抱える感情が感覚として伝わってくる。その都度違う心情や情景が映る表現に何度もぐっと心を持っていかれました。 元上司と部下、信頼しあっていた関係。そして、押しかけ同居。 そんなふたりは、それぞれが隠し押し込めた「秘密」の気持ちを抱き、過去を抱えながら体の関係を持ってしまう。同意などなくこの上なく激しく…… 性的嗜好を隠す者。 その隠された嗜好を知り、酷く責め立てたいと思う者。 そんな仄昏い気持ちを胸底に抱える始まりは、感情を複雑にもつれさせ微妙にすれ違い、読者は強い切なさとやるせなさに苛まれます。相思相愛なくせに、と。 描かれるめくるめく行為シーンには、激しさだけでなく艶と憂いを感じる。諦念と渇望。溺れながら、何かに縋るよう手を伸ばしているような…… お話全体に流れる水中を感じさせるアンニュイな雰囲気に、ぽっと灯る本音と、垣間見られる過去。 そして、大事にしたいのに、酷くしたい。知りたいのに、知りたくない。全てが表裏一体……相反することたちは本当は同じ意味を成す。随所に潜むそんな表現に引っかかる度に、このふたりの世界へ引きずられる感覚に陥りました。 過去に縛られ未来を恐れ、今を揺蕩う一史さん。 そんな一史さんをまるごと抱え込み、内から全て自分で満たしてしまいたい晴人さん。 ようやく、怯えながらも縋り付くように手を伸ばし始めた一史さんと、そこに密やかな喜びを見いだす晴人さんのラストシーン。 これから、を孕む余韻にどっぷりと浸かりました。 衝撃的な始まりに、巧みな言葉選び、相反する感情や行動の対比…… 作者様曰く、ここまでは序章とのこと。 繰り返し読み返せば、そこかしこに散らばる、ふたりの過去の欠片たち……この後、さらなるふたりの姿を追えるのを楽しみにしております。 狭い空間で紡がれる、濃密で、淫靡で、暴力的で、愛情深いふたりの物語。 とても、とても、心揺さぶられお話。ありがとうございました!
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レビューありがとうございます!身に余る光栄!!
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