Nuno

普通に、平凡に生きている──と思っていても、ほんの些細な事で、簡単に歯車は狂ってしまう。 それは、周りが見えなくなる時。 自分の事しか考えられなくなる時。 本作品の主人公は「托卵」に手を染めた。 常識的に、冷静に考えれば、非人道的とさえ言える行為だ。命を何だと思っている!と怒鳴りつけてやりたいとさえ思う。 だが、生きていれば、誰しもが陥りやすい落とし穴というものはあるのだ。真っ暗な口を大きく開けて、獲物がかかるのを今か今かと待っている。 幸せになりたい。 楽しく過ごしたい。 その思いに、他者は含まれているだろうか。あなたの大切な友人は、恋人は、家族は。 自分だけが幸せならそれでいい──果たしてそれは本当の幸せだと言えるのか? 本作品は、その問いを鋭く抉り取っている。物語に散りばめられた言葉が、たびたび胸に突き刺さる。自分は大切な人をきちんと愛する事ができているだろうか? とても考えさせられる、とても深く、切ない物語は、形は違えど、実は我々のすぐ近くにあるものかもしれない。 「散乱した花瓶の破片をまた踏まないように注意しながら、私は大きく一歩を踏み出した。」 主人公が殻を打ち破った瞬間の、この一文が、殊更胸に染みた。 自分だけが辛いのではない。 自分だけが不幸なのではない。 まさに珠玉の作品。 多くの人が手に取ってくれることを、切に願う。
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