紅屋楓

美しい花々を見てみましょうよ。
そこはかとなく感じる『少●椿』の香り……また「椿」の語りは吉屋信子先生の少女小説を思わせる。それらが相俟って、(時代設定は分からないが、)大正時代のよう。 第一では、二人の少女の別れ、美しい少女を慕う桃の姿は前述の少女小説さながら。二章になると、語り部が花屋敷の男性客・茂雄に変わる。 偶然通りかかった見世物小屋の前で見た、美しい女と見事な客引きにより、つい小屋の中へと入ってしまう……もしや? 見世物小屋の花は美しく、異形をしたものばかり。ここからが本番であり、まだ少し話のさわり。花屋敷の面々が舞台に立ち、芸を披露する。その描写は生々しさと艶めかしさが合わさり見事だが、一人一人の紹介は控えめ。ちょっと惜しいかも。客たちが去った後にニヤリとした読者もいるのではないだろうか。早く見世物小屋の中を覗いてみたい。 以降は花屋敷の面々が自分語りを始める。どのようにして見世物小屋に流れついたか、内部で何があったか。 彼らが思い、考え、語る「普通」は自分たちと比べてどうだろう?似ているか同じか、そうではないか。 そもそも着眼点が難しい。普通というのは、よく分からない。しかし彼らが自問自答する中で自分を肯定する。 「自分は案外普通の人間だ」 皆ここに行き着き、いずれ答えを出す。 異形だろうが、そうでなかろうが。滑稽だろうが実はあまり関係ないのかもしれない。 人間は誰しも「自分は案外普通の人間だ」と。心の中では思っているものなのだろう。 匂い立つような花屋敷の客になり、立ち寄るだけも良し、見世物小屋の花に深入りするも良し。 ひとまず見て行くことをおすすめします。 お代はお後でいいからって、そう言ってくれてることですし。
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ありがとうございます!なんだかもったいないほどの感想をいただきました嬉しさ極まれり……ありがとうございます!
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