これぞ、ビルドゥングス・ロマン!
 最初は美少年のお話かと……いやそれはそうなんですが、彼はそのことにコンプレックスすら抱いている、思春期特有の自意識。  そう、この物語は、一見映画を観るような美しい描写の中に、斬れば血も吹き出るような生々しい生命がある、と感じました。  これぞ、ビルドゥングス・ロマン!  2回読みました。最初は流れるような描写の美しさにさーっと読んで、でも途中から、これはもう一度、今度はじっくりと噛みしめて読むべきものだと思いました。それは正解、でした。  何より、人物造形がしっかりしていること、物語の構成が実に緻密であることに唸らされました。二度読んで改めて実感したことです。  エシーに純粋な想いを向けるジルベールの初々しさが何よりも魅力的、また、エシーがそれに値する素晴らしい女性であることが、しっかりと伝わります。ジルベールをひっぱたく彼女、素敵です。筆力のなせる業! だからたとえ誰に理解されなくても、本当に命懸けとも言っていいくらいの恋だったんだと納得させられ、熱くなります。  また、ジルの家族もしっかりと個性的に描かれています。少しだけ欲を言えば、クラーレットの描き方がやや既視感のある少女像だったことが瑕瑾、でも、幼い子供であることを考えれば、仕方ないかも。  紅屋さん自身が紹介文に書いていらっしゃるように、映画を観たような気持ちにさせられたのは事実ですが、多分映画で観るよりも強烈な印象を抱きました。光を見るよりも光を感じるような。  もったいないところは、他の方も指摘されていますが、人称がいろいろに飛ぶので、分かりづらいところと、場面転換があとにならないと分からないところでしょうか。筆者がまさに映画のシーンのように描いていることが根拠にあると思いますが、読み手の側からすると、やはり明示された方が読みやすいですね。  ともかく、重厚な読書体験でした。ありがとうございます。番外編も読みますね!    
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ご丁寧なレビューをありがとうございます。 返信が遅れてしまい、申しわけありません。 まさか2度も読んでいただけるとは思わず、感動いたしました!! 人物造形や物語の構成も褒めていただけ恐縮です。 育った環境やあの年頃特有の頭でっかちな自意識、物語の生々しい生命に至るまで読み取ってくださり、本当に嬉しく思います。 ただ、クラーレットに関しては仁矢田さんの仰るようにステレオタイプから抜け出せませんでした…… さて、人称などについては実を申しますと本作および続編は「三人称に挑んでみた」ものでした。 なのでどうにも上手くいかず、執筆時から「あーでもない、こーでもない」と唸りつつ書き進めておりまして。

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