水谷遥

細部を見る!
 前半と後半の二部構成で、二部は全て濡れ場です。この後半を見せる為の前半であり、ここに込み入ったストーリーを入れ込んでしまうと、情報が邪魔で作品目的が果たせません。どうしても簡単な設定でストーリーを動かしたい。  どうするか?  一人称を使えばいいのです!  その具体例のようでした。  こちらの導入は、サラリーマン二人が居酒屋で飲んで、タクシーで帰る。これだけです。これだけですが、主人公の性格は伝わります。  非常に洞察力に優れており、居酒屋亭主の表情や、料理について事細かに説明が入ります。このように細部を見取れる主人公ですが、ここには理由があり、「自身の本音」を徹底的に隠す傾向にあります。濡れ場シーンでもこれは書かれていて、相手方の告白までじっと待っています。心の声では色々と言っていますが、実際の「行動」として、これは受け身です。  観察力が養われたのは、どんな状況であれ、隠す必要がある性癖を抱えているから……なのかは分かりませんが、隠し事がある人ほど細部をよく見ているという人間味が表現されているようでした。  更に、「細部を見る」というポイントの利点が上手く活用されていて、他の方々のコメントでもありました「飯テロ」、という文言通り、運ばれてくる料理がとても美味しそうに描かれていて、私は食事直後にこれを読んでいたにも関わらず「美味そうだな」と思いました。  「細部を見る」という主人公の性格上の説明と、料理を描写したいという作品上の理由と、もっと言えば「ゲイ」に対する抑圧と、これ一つで全て表現できているのは特筆すべき点でした。
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「どこまで主人公になり切れるか?」と思い書いてみたら、あんな大事になってしまいました。 登場人物二人だけの、たった一晩の話に水谷様をはじめとして読んでいた方々には感謝の気持ちしかありません。 語り手で主人公である野宮と一緒に酒と肴とに舌鼓を打ち、ジレジレジタジタとする心の動きを楽しんで頂ければ作者冥利に尽きます。 本作品も詳細に論じて頂きありがとうございました。 これからもどうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

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