水谷遥

素晴らしい劇中劇です
 紅屋さんの作風で最も目を惹くのが「色使い」。とにかく多彩で、映える。個人的には禍々しいとさえ感じます。  今作の冒頭も華美な色合いと鮮やかな「薔薇の花弁」が舞い上がる様、内容の中核を一枚絵で抜き取るのならばここしか無い! と言えるワンシーンを、初っ端のシーンで芸術的に書き上げています。  これは名刺ですね。冒頭だけで、この作家さんが今からどのような物語を書くのか、容易に読者へ想起させます。  加えて「禍々しい」と書きましたが、表面的に映える色彩の裏に、がっつり合理性が組み込まれていて、むしろそうした精緻な合理性を「美」により覆い隠しているような峻厳さがあります  この作品のテーマが、まさにそれでした。  圧倒的な美しさを持ち、美しさの中に取り込まれてしまっている主人公。合理性で身動きが取れずに凝り固められ、快楽と言えば殺人、話し相手は老婦人と小さな妹だけ。全ての女性に受け入れられた主人公が、唯一手に入れられなかった「女」との邂逅を期に、人としての憤懣、つまりは心に悩まされていく。  殺人衝動については何か月後に読むとまた違う見方がありそうですね。  全ての人物に役割が設定されていて、全て、主人公の為に配置されています。名前付きのキャラがもう一人出てきますが、こちらも主人公の変化を描写する為に使用されています。  冒頭とクライマックスは「人物の成長」を表現する手法。もっとありますがネタバレが過ぎるので控えます……。  この合理的な作品構造と「美」こそ、まさに主人公の葛藤そのものではないでしょうか?  もっと深読みするのならば、作者自身の想いも代弁されているのかもしれません。  ガチですね。  全く隙が無いです。  私的に、紅屋作品は本作が代名詞です。

この投稿に対するコメントはありません