小池正浩

それは雨の日のことだった
……雨、降りそそぐ雨、   アスファルトの上、音符が散らばった…… ……夢、眼の前は滲んで、   たった一歩さえ、踏み出せないまま…… ──うつむけば   水溜まりに映る ぼやけた自分を見た   「いま何を、やりたいの?」   「……分からない」 あの日から 私たちは  〝大切なもの〟をなくした あきらめることで大人になるのが   怖くてくやしいから…… ……雨、街中びしょ濡れ、   流れる人の群れ、色とりどりの傘…… ……夢、いつかの思い出、   誰かの面影、通り過ぎた跡が…… ──ありふれた   日常の憂鬱、不安、やりきれなさ   行くあても 居る場所も   ……何もない あの日から 私たちは  〝大切なモノ〟をなくした 「傷つけることで大人になるのか?」   必死で叫んでいた…… 「何をしたらいいんだろう?」  どんより曇る空のもと 「どこへ行けばいいんだろう?」  たとえ道に迷っても  生きる意味はきっとある だからまた 私たちは  〝大切なモノ〟をさがした ここにいることが絆になるから   明日へつながる 「いつの日か、強くなる。  もう泣かないで大丈夫」 ……雨、夜空の彼方へ、   悲しみの果て、夕焼けキラキラ…… ……夢、未来に向かって、   ほんの少しだけ、前進しながら…… 「大丈夫」  ──そんな言葉が胸にそっと沁みこんでくるような、ひとつのちいさな物語。無数に「降りしきる雨」の景色と音色といっしょになって。  あなたの「傘」は何ですか?
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