あーる

いつかの自分に重ね思い馳せる…迷いと希望の『青春ストーリー』
恋と友情、憧れ。そんな感情たちが交ざりあい、泣いたり笑ったり、時に痛みや切なさを知る…そんな青々しく瑞々しい「青春」を思いきり感じられる物語。 家庭環境が不安定な奏真君。序盤に描かれる彼が抱える寂しさや理不尽な思い、奏真君の目に映る灰色の景色にやるせなさが募ります。 そんな奏真君の前に現れた憧れの先輩瀧本さんは、豪快なのに察せる繊細さも持つとても魅力的な人。読者は皆瀧本さんに惚れてしまうかも(笑) そんな彼は迷子のような奏真君を導くのではなく、視界不良の道を進む足元をそっと照らす、明るくてあたたかくて心強い光のような存在だと感じます。 もうひとりの大切な登場人物、奏真君の親友直樹君。彼もまた悩める高校生で… 自分のことなど見えない十代後半。表立って口にしない、できない…皆それぞれの想いを抱えている。ままならない彼らの姿はいつかの自分と重なり郷愁を誘われました。 家庭環境、学校のこと、巻き込まれた事件のこと。いろいろな迷い道から必ず救い出してくれた瀧本さん。彼は常識ばった大人でも、やりたい放題の子どもでもない、大切なものを知っている強い人。奏真君が立つ人生の岐路、その場所に傍にいてくれたのが滝本さんで本当によかったと強く思いました。 彼の傍で、誰もが誰かに支えられていことを知り、「ひとり」の危うさに気づいたからこそ持てた夢。その夢を実現した先に出した答え…ひとり巣に篭っていた雛鳥が独り立ちし大空へ飛び立ったような、そんなエンディングは爽やかで晴れやかな気持ちが広がりました。 奏真君と瀧本さんの関係はとても可愛いらしくて…互いが大切な存在なんだと強く感じ、優しく幸せな気持ちが溢れます。けれど、何故かそこはかとない落ち着かなさ…手放しで未来の彼らを想像できない。そんな思いがずっと心の奥で燻っていました。それは終盤、瀧本さんの心の声を聞くことで正体に気付かされます。その“落ち着かなさ”を最初から読み手の心にそっと置いておく。そんな所に作者さまの文章力を感じずにはいられません。 単なる恋の物語ではなく、友愛や親愛様々な愛情の物語でもあり、浅はかで不器用な青春の物語でもある。 その彼らの「青春」は、誰もの心に響き奏でられる…『奏』そのタイトルにこもった思いにも触れられた気がしました。 きっとこの世界のどこかで彼らが今も時間を重ねている。そう思えるとても素敵なお話でした!
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あーるさん素敵なレビューをありがとうございます! 嬉しいですよーっ!(´Д⊂ 「浅はかで不器用な青春の物語でもある」 そうなんですよね。誰もが通り過ぎてきた十代。些細なことに傷つくクセに、己も誰かを軽はずみに傷つけてしまう。 こんな場所は嫌だと思っているけど、どこにも行けないとくさったり、諦めたり…。痛々しくて、でもその感受性の強さ故に、世界がキラキラと輝いて見えたり、一生忘れられない笑顔や風景、思い出を胸に刻みつける。奏はそんな、誰もが走り抜けてきた時代を思い出す、ノスタルジックな物語であります。 わたくし(たろ)もあの頃を思い出せば、恥ずかしくて痛いことばかりです。でも転んで怪我し
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