園原千三

静かで冷たい、それでいて心に光を灯してくれるような素敵な物語
 前半は「へび」に関する描写に重点を置き、少しずつ主人公である「僕」との関係を描いていく過程がとても自然で、全体を通して起承転結がしっかりした読みやすい構成になっていると感じました。  はじめから終盤直前まで、微かに不穏な空気がつきまとうような感じがして、少し怖いけど先が気になるような、ミステリーやホラー小説を呼んでいるときのような、好奇心を刺激される感覚がありました。  特に物語の「転」である動物園で「へび」が豹変するシーン。他の人と違っていてもいままでずっと穏やかだったはずの存在が、得体の知れない何者かに思えてしまったあの瞬間。読んでいて、土の湿った日陰にいるような、じっとりとして冷たくて居心地の悪い感じがひしひしと伝わってきました。    「へび」と「僕」の関係性がそのまま実際の蛇と太陽の関係性にリンクしているところも、非常に素晴らしいと思います。そしてそれが最後の最後で逆転することに心を揺さぶられました。  主人公の部活動を陸上部にしたのも、最高だなと。  本編に描写はなかったので私の深読みかもしれませんが、もしかしたら「へび」は「僕」が陸上部だったころを知っているのではないかと思いました。  それで、長距離走をしている「僕」にあこがれて、同じ高校に入ったのかな、なんて……考えすぎでしょうか。  本来なら手足のない蛇が人の走る姿にあこがれたのだとしたら、なんだかそれだけで胸が熱くなるような気がします。  生きる意思と意味を問われて、蛇と太陽の関係から蛇とイヴへ、そして「へび」の死と水彩画をもって、関係性は逆転し「僕」は走り始める。 「僕」は毒や冷たい体温と言っていますが、それはまさに「へび」という太陽からもらった光と熱なのではないかと、私には感じられました。  なんて静かで冷たい、それでいて心に光を灯し、熱を与えてくれるような素敵な物語だろう、と読み終わったあとの満足感でため息が出ました。  素晴らしい物語を書いて下さって、本当にありがとうございます。
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