鵜木曽 銘

文章が素晴らしい
まず、文章が素晴らしい。対象の女学院で過ごす乙女たちの繊細な心を絶妙な筆致で描き出していると思います。特に華美さんの嫉妬、ひなげしさんの動揺、そのあたりの描写は細く罅の入りかけた薄いガラスを思わせるもので、うまい文章だなあ、と感じました。大正の空気感というのも、風景の描写などに文字を尽くしているわけでは無いのによく伝わってきます。 もちろん内容も面白いです。妹に成りすまして女学院に通う有雪さんと、その秘密を知るひなげしさん、やはりこうして秘密を分かち合う二人というのは、見ていてワクワクするものがあります。共犯関係というのは最も深い人間関係だ、と有名な誰かが言っていたような気がしますが、この二人の関係はそれに近いものがありますね。また、この作品では有雪―露路、ひなげし―華美で兄(姉)―妹、という二つの構図を重ねて二つの軸(十貫寺家の闇に迫る軸と、露路(有雪)とひなげしと華美の人間関係の軸)で話を進めていましたが、どちらの軸もきれいにおさまりが付き、とてもうまい書き方だと思いました。それと、露路が実は兄の有雪だった、と判明するくだりについてなのですが、ここで一つの「謎」のようなものが解かれる形になっています。つまり、なぜ露路は人が変わってしまったかのようにふるまい始めたのか? という謎に対し、「本当に人が入れ替わったからだ」という解を出す。謎としてはおそらく目新しいものではないのですが、この結論によって、女学院に男性がいる、という状況が導き出され、後の展開に勢いをつけて突入させることができています。このことによって読み手をさらに物語に引き込んでいく効果を生んでいるわけです。こうした「謎」の使い方というのは、上手だな、と思いました。
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