小池正浩

アンドロイドは性犯罪の悪夢を見るか?
 近未来──人と人型ロボットの区別は外見上もはや容易にはつかないほど、一般化し日常的になった。人類のいままで蓄積してきた膨大な知識や経験がインプットされ、人間そっくりに外観や所作がコピーされ、自然に違和感なく会話すらできる超高性能アンドロイド。  人々は、街中や建物内をムーヴィングウォークで移動し、つねに腕にはインターネットと繋がり映像が視聴できるウェアラブルデバイスを装着し、ひとりひとりが皮膚に鍵や許可証がわりに使用されるIDをもつ。なかでも二世三世の国会議員などは「上級国民」とデータ登録されており、首相官邸の厳重に警備体制が敷かれたセキュリティも自動的に認識/記録されフリーパス、ゲートやドアはすべてスムーズに開閉し、最初のIDチェックがすめば目的の場所まで快適に進むことができる。上階へ行く際は足もとの透明な円盤エレベーターが作動、入室し腰を屈めれば何もなかった空間にたちまちイスが出現する。  しかし「近未来設定の中に出てくる物は殆んど現代に既にあるもの」と作者自身により後書きで註釈されるように、じつはアンドロイドにかんする記述以外は意外にも、すでに実在する、あるいは実現が充分に可能な、現実の、現在進行形の、実用化されつつある最新テクノロジーにもとづいてつくられた話なのである。  フィクションとして、SF的ガジェットとして物語にテーマ導入されているのは、「性欲処理専用のもの」とされる特殊仕様のアンドロイドのみ。現実社会でもネット上などで多く問題化している性的な表現を寓意するその「セクサロイド」をめぐって、とくに性犯罪を焦点に法規制や倫理など広く議論されるのが、この話の主題にほかならない。  フォートナム&メイソン厳選茶葉の紅茶セット。  3時16分で針の止まったアナログ時計。  それらの暗示する悲惨な事実を知らされるとき、私たちはヴァーチャルでありながらリアルな、けっして醒めることのない悪夢を擬似体験することになる。この物語は性表現をめぐるたんなる悲壮で皮相な寓話などでない、実際にある事実にもとづいてつくられた現代社会の、いつかどこかで、いつでもどこででも起こりうる、いやもうすでに起こっているだろう悲劇的な問題を描いた、かぎりなくノンフィクションに近いフィクションなのである。  性表現はどこまでゆるされるのか、等しくすべての受け手が問われている。
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レビューありがとうございます。 ただ筆踊る儘に書き始め、何を書きたいのかさえ分からず方向性も定まらず、途中まで書いて漸く、実際にあった事件と結び付き、ああしたラストになりました。 私以上に作品の主旨を理解し分析して頂き恐縮です。 性表現に関しては「お前が言えるんか?」って作品の多い私ですけどねww エロいだけグロいだけの作品も否定しませんが、そういう作品を人目に触れるような場で公開するのなら配慮は必要かなとは思います。 勿論、メッセージ性があれば尚更描写には気を付けないとメッセージが薄れてしまいますもんね。 私の作品の中で一番ムチャクチャで尖っていて、でも取り敢えず言いたい事は言ったという自己
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 春野さん、初めまして。  ご挨拶さえしたこともないにもかかわらず、不躾にも、突然、勝手にレヴューを送りつけて失礼しました。小池です。  凄いですね。「ただ筆踊る儘に書き始め」たうえに、「方向性も定ま」っていない状態で「ああしたラストになりました」とのこと。大変感服しました。さすが、濃密な長編をいくつも書き上げている方だけあります。技術とセンスが卓越している。  と、つづけて偉そうに勝手にまた評価していました。春野さんの著作中もっとも尖鋭的な作品というのもたしかにうなづけます。ただ単純に個人的な好みをいえば、何より僕はそのとがったところが大好きですね。  じつはレヴューとはべつに、『
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