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怨霊
氷堂出雲(ひょうどういずも)
2021/6/15 6:10
入り混じる「私」と「俺」の2つの世界……優れた表現!
入り混じる「私」と「俺」の2つの世界。現実の「俺」と夢の中の「私」の過去の体験。 2つの世界のストーリーの重なりや進行の手法に唸らされた。 読み終わり、ふと考えた。 彼女、松田恵美の見せた「私」への優しさは、本物だったのか、いったん友達になってから裏切って絶望感を与えるための作戦だったのか。 優しい母親であったこと、ある程度の期間、仲良くしていた事から、その優しさは本物だったと考える。 小山さんと友達になった松田恵美は、小山さんが恋をしていることを聞き、小山さんのくせにと湧き上がる嫉妬心。 いじめは、広義の嫉妬心から起きるのでは? だとすると、それは本能的感情であり、人間というものは放っておけば、いじめをする生き物なのではないのか? この物語を読んでそう感じた。 しかし、その本能的感情にブレーキかける事ができるのもまた人間だ。 小山さんの大村くんへの恋心を聞いた松田恵美は、逆にアクセルを踏んでしまった。さらに、作者が記述する問題行動…いじめを反省せずに「遺書に名前を書いた」と怒る態度、友人への叱責。 なぜ、松田恵美は、そんな異質な行動をとったのか? 「そんなことをされたら、相手がどう思うか考えろ」そんな言葉をよく聞く。松田恵美もおそらく直感的にそれは考えている。だから、いったんは反省して友達になった。しかし、圧倒的に想像力が欠けているのではないか? 嫌なことをしたら「悲しい」だろう。 水をかけたから「冷たい」だろう。 その先にある深い絶望の心を何一つ想像できていない。 その程度の貧しい想像力だ。だから、これほどのことができる。 松田恵美の怒りの正体… ちょっと「悲しい」ことをしただけなのに。ちょっと「冷たい」ことをしただけなのに。なぜ死ぬのだ。その程度のことで私を陥れるなと。 そして、友人への叱責。からかってやろうと言ったのはお前だと。しかし、松田恵美はそのことを怒っているのではない。悲しいとか冷たいだとかで死んだあいつが悪いのに、何故かばうのかと怒っているのだ。 この物語を通じて、いじめというものを撲滅することは簡単なものではないことがわかる。また、簡単なものではないが、撲滅しなければいけないこともわかる。複雑な気持ちが止まらない。
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よしけん
2021/6/15 6:40
素晴らしい批評と考察をいつもありがとうございます! まさか、いじめる側の立場から批評、考察をしていただけるとは脱帽いたしました。 ただ、たった一つだけ、たった一つだけ苦言を言いますと、あとがきにも書きましたが、この物語は「怨みと因縁」の物語なのです。故に、松田恵美にスポットを当てるのはちょっと違います。いじめとは舞台装置の一つに過ぎず、松田恵美もそこまで重要なキャラクターでは無いのです。あくまでも主役は(実は)「私」であり、考察すべきは「いじめ」「私」「それによって伴う因縁」なのです。 仰る通りで「いじめ」は絶対に無くなりません。何故なら「人間とは感情の生き物」だからであり、それ故に生じた黒い
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氷堂出雲(ひょうどういずも)
2021/6/15 7:31
怨みと因縁 その部分に関する感想なのですが、最初書こうと思いましたが、自信がないのであえて避けました。 プロ野球を見ながら酔っ払いの親父が、「そこは、こうした方が良かったんだ」などと、プロにど素人が意見する……そんな戯言だと思って聞いてください。 怨みと因縁については、押しが弱かったと感じました。 因縁のきっかけとそのきっかけを知る過程の苦しみや怖さはわかりました。しかし、その後、記者の取材を受けるまでに具体的にどんな怖いことを体験してきたかが「あらすじ」になっていて実感が湧きません(それこそ、私の想像力の欠如かもしれません)。 具体的な恐ろしい体験や人生を妨害される場面を会話や描写で
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