絶望的な近未来を描いた分かりやすい警鐘小説
 蜜原氏はエッセーを読む限り、政治や社会の動き、国際問題などにしっかりした主張と信念をお持ちの方と考える。  ただこれまでの作品で、氏の主張がハッキリとしたかたちでテーマに反映されていると感じたことはない。  あくまでエンターテイメントの中の趣向として取り入れられるに止まっていたかと思う。  昭和の名ライターであった佐々木守氏が大島渚監督に薫陶する強固な左翼思想の持主であり、特撮ドラマなどには背景として積極的に政治的社会的趣向を盛り込みながらも、最終的にはエンターテイメントとして完結させている姿勢に通じるものを感じる。従って佐々木守脚本の特撮ドラマはドラマの背景に隠された思想性を引き出した実相寺昭雄監督作品などは優れた名作として現在も語り継がれているが、表面だけを映像化した某ドラマなどはあきれるほど評価が低い。  今回、蜜原氏が、言い方は悪いが、「現在の政治社会文明に対する警鐘」がテーマと、子どもでも理解できるストレートな作品を執筆したことに、非常な驚きを覚えた。  漫画家の山上たつひこは『光る風』の中で、軍国主義化の進んだ近未来の日本を描いた。それは個人の抵抗では動かしようのない希望のない社会であった。今でも私の心に刻まれる作品について、山上はインタビューに答え、 「全くうけなかった」 と語り、その後は『がきデカ』に代表されるナンセンスギャグに転向した。これらの作品群をじっくり読み返しても、作品の奥底に『光る風』の持っていた現代社会へのストレートな警鐘を感じることはどうしても出来なかった。  『光る風』が山上に何をもたらしたのか? 私には分からない。  だからこそ今回、蜜原氏がここまで分かりやすく、現在の政治や社会への警鐘を打ち出したことに、読者のひとりとして深い感慨を覚えずにはいられなかった。  この作品では、度々、テレビや新聞、雑誌で取り上げられる現代社会の様々な問題点を取り上げている。環境問題、監視カメラやマイナンバーカードに指摘される監視と国民統制。  この特集を、ここ三ケ月ほどの間に革新系の新聞でも目にした。  果たして蜜原氏はどこへ向かうのか?  蜜原氏のエッセーのファンでもある私は、今後の氏の作品からますます目が離せなくなった……。
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 SFの手法の一つに外挿というのがあります。現在から、ある事象の行き着く先などを想像でもって描く、とでも申しましょうか……それに、『蜂起』のなかのあの世界は、文化大革命やカンボジアのクメール・ルージュについてちょっとでもかじったことのある方から見れば、落ちなども容易にわかってしまうはず、です……。  山上たつひこ先生は、ずいぶん前に一種の全集だったか選集だったかが刊行され、一部は読みましたが、わたしは『喜劇新思想体系』のような危険すぎる(よく刊行できたと思います……)ギャグ漫画のほうが好きだったりします。  で……なのですよ。  次の作品は、例の人外だらけの学園もの……なのですが、いつもとはち
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