小池正浩

 行きつけの美容室がある──といっても、もちろんカリスマどうのこうのとかいったそんなたいそうなものなどではなく、髪型にまったくこだわりをもってない人間なのでたんに手頃な値段で気軽にカットしてもらえるのがそこのお店ぐらいしか近所にないからという理由のみの「行きつけ」なのですが、そのぶん予約制でもないため時にはまあまあ待たなきゃいけない場合もあって、いつも見るともなく眺めて相変わらず表紙を飾るのは男性アイドルか皇室ファミリーばっかだなあとか、真偽もふたしかな芸能ゴシップや金にまつわるトピや美容健康ネタ、とりわけダイエットのありとあらゆるあやしげな方法がほとんどだなあとか、そういう感慨を懐かせる女性週刊誌を暇つぶしに何気に手にとったわけですね、すると目次にならんだ記事のタイトルも表紙に踊る大仰かつスキャンダラスな煽り文句とほぼほぼ変わらなかったものの、いやだからこそしょうがなくコラムでも読もうかなとおもってたまたまページをめくったのが、「女性自身」に連載されている武田砂鉄の『テレビ磁石』。おもにタレントや政治家などの時事的な言動に焦点を当て、ユーモアたっぷり皮肉まじり的確に論じているのがみごとだし舌鋒鋭いとはまさにこのことだしと、あまりにいちいちおもしろくておもわず場所をわきまえず声を出して笑ってしまったほど、他誌といっしょに山積みされた中からさがしだし遡って過去十号分くらい通読してしまったほど、でした。10月に単行本化されるということを知ってこりゃ買いだなと、で実際購入して読んだら、時勢や権威におもねることなく、論の立て方も論じ方にも説得力の高い観点と考えがしっかりあり、ワイドショーのコメンテーター依頼は固辞する、何々評論家といったような肩書きをつけないといった、物書きとしての芯と矜持をもった姿勢のその真摯さが気に入って、ほかの著作も気になり文庫化されているもの全部かたっぱしから一気に短期間で読んじゃいました。喩えのうまさはとくに絶品。ツボにはまるのも当然、たとえば太宰治に対する僕の批判的論評に目をとおした方なら察してくれるとおもうんですが、短絡的思考に否を唱えツッコミいれるとこなんか、けっこう近しい。なかでも『マチズモを削り取れ』は名著中の名著で、こまやかなジャーナリズム性と批評性に裏打ちされたロジックはすごく触発的で画期的。言葉をとても大切にしているのがわかります。

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