出雲黄昏

報われてはならない愛、いや毒のかたち。
 読了後、タイトルの「それ」は何を指しているのだろう。と考えた。ふたりの関係性か。文学か。愛か。そんな物ではないのか。あるいはそんな物、であるかもしれない。底知れぬ奥行きのある作品に敬服する。決定的にこれだ。と「それ」を特定するのは無粋なのだろう。  この奥行きの正体のひとつとして、近すぎるふたりにも関わらず、接しない距離感にある。なのに、『それは毒めく口づけのように』としたタイトルであり最終章。口づけ! その接触を伴う行為、「のように」。タイトルから本文の表現。内容に至る遠近感。この距離感に読者は酩酊する。わりと混乱しつつ、どう頭の中で本作を解釈して良いのかわからない。ただひとつ、面白い作品だ。そう思える。短い作品ながら多様な読み方ができる。文学然とした高尚な品で、本文を摂取してこそ得られる喜びがある。  優が文学と向き合う姿勢が印象的だった。  薔薇を美しいと思える読者だけに伝わればいい。これは傲慢なのだ。しかし広く大衆に向けて薄味に仕上げたところで、その作品は響くだろうか。この葛藤に苛まれつつ、本当に書き記したい物は燃やす原稿に吐き出す。他者にない不要な欲望を抱えて生きる人間の苦しみがあるのだろう。  優にとって麗は救いであり、麗に対する愛情は節度が要求される。  最後優の記した一冊では、その節度を崩壊させて表現したのではないだろうか。そう思わせてくれるラストだった。
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黄昏さん、ステキなレビューありがとう💕 今回の作品は、一言で言えば『本物の読者がいてくれるコトが作家にとっては大切だよね』というシンプルな感覚を、文学として書いてみたの。 実のところ、ネタもプロットも推敲すらもない書き殴りで、だからこそ生の原稿としての生きた感じが出たのでは?と思ってる。 創作者本人や、その近しい人が読むと、努力が完全に実るなんていうのは幻想。 それでも、内から湧き出るものは止められなくて、その絶望と願いの狭間で苦しむ作家に、娘という存在を置いて救済としたかった。 私は父親がいないから、これを書けたのだろうし、父親には憧れのようなものがある。 でも父娘恋愛の肯定ではなく、近しい
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