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マジ万字企画【24年1月20日】
23年もありがとうございました。
万字の進捗率がとても悪かった今年一年でした。
たぶん来年はもっと落ちるので、今のうちにできる限り進めます。
今回はりふるさんの作品です。
短編を幾つか頂戴しています。(Jの外伝)
これらの短編を伸ばして中長編にするには? との質問を頂いていますので、その観点が読んでみます。
因みに、こういう短編を長編にする場合は、ゼロベースで考えた方が良いです。
どうしても継ぎ目で綺麗にならないですし、そこに頭を悩ませるくらいならゼロから書き直す方が確実に早いです。
もしくは、骨組みだけ残して、全く別の設定を被せたりします。これは私もよくやります。忙しい時なんかはこればっかりです。過去作の継ぎ接ぎ……。
が、やっぱり新旧部分が綺麗にならないので、破れかぶれ感があります。
時間に猶予があるなら、一からやるのをおススメします。
今回は
【三途川一家の優しい面々(Jの物語:番外編その5)-完-】 著:りふる様
https://estar.jp/novels/25496584
の中から3作です。
【①若頭 イチの物語】
https://estar.jp/novels/25496584/viewer?page=2
粗筋
若頭、須藤一郎が現在(本編)の三途川組へ入るまでと、入ってからの話。
まず良かったところで、冒頭のヤクザ事務所で一郎が脅迫される場面は迫力があって良かったです。
会話もテンポよく進んでいくので臨場感もあって読みやすいですね。
今作は短編かつ人生譚で書かれています。
冒頭が面白かったので、ここで襲撃事件のエピソードは深掘りしたり、大きな悩みを作っておきたいところでもありました。絶好の伏線ゾーンだったので、後半にも響いてくるイベントとかあるとより印象がつくはずです。
余談がてらですが、読者の印象に残る部分は「性と死」と決まっていて、「死=暴力」とも言い換えられるので「セックス&バイオレンス」を使った時、特に冒頭で出てくる場合、そこに伏線を仕込むと読者が覚えやすいですし、物語全体に響くので何かと便利です。
今ままでも良いですが、もうちょっと欲張れそうなエピソードでした。
※イチが利用されたヤクザが、後半にまたちょっかいを出てくるとかでも使えそう。
三途川組へ入ってからも、ドタバタのコメディみたいな展開から始まって、最後は本編の主人公も登場したりとサービス精神も溢れていて面白かったです。
本編を読んでいる人が楽しめる構造にしてあるのが好感です。
毎度思いますが、りふるさんはこうした「読者の反応を想像する演出」が多いのが特徴ですね。
外伝というのは一種のファンサービス的な意味合いもあるので、ちゃんとファンの人達の反応を考えて、本編主人公を登場させるのは良い演出でした。こういう所を外さないのは誇れる部分です。
特に気になる部分もありませんが、細かい部分で(指摘ではないです)、りふるさんは台詞が長文になりがちなのですが、これはおそらく良い台詞を探っている時間だと思います。時間を使えばよい台詞が出てくるので素晴らしいです。
が、逆に、短い台詞やキメ台詞が単調になりがちだったり、一発でトップギアに入らなかったりします。
推敲の際、そのワンシーン全体をみて台詞の尺や熱量を考えてみるのもアリです。
(ここは掛け合いになっているけど、誰かの台詞一発でいけるな……。みたいな感じ)
で、この話を単独の長編にするなら? ですが、全然できると思います。
只、できるけどやるか? と、私はなります。
というのも、この話って「人生譚」になっているのですが、人生譚は結構大変です。
視点が俯瞰的になってしまいます。その人物の年表を広げ、どこかだけを部分的に抽出して、また年表に戻る……というスタイルになりますが、これが難しいんですよね……。
没入感が弱くなっちゃういます。
有名なセオリーで「劇中の時間は短い方が良い」というのがあります。10年間の話のつまみ食いよりも、その日1日だけの話の方が没入できるという理屈です。
これを元に構成すると、今のベースだと「①八田組の騒動~刑務所」を前編、「②三途川組で、イチが心を開くまで」が後編……としたいとろですが、①は全体の尺の半分も使えないんで「起」の中、というか冒頭で収める事になります。冒頭だけで①は終わりで、冒頭終わりにすぐ嬢と親父さんが登場するくらいのペースになりそうです。
あと難しいのが「単独で長編」の「単独」部分。
単独で収まる話にしようとすると、三途川の娘さんをイチの恋人候補とかに変えて、親父さんの諸設定も短編用にしたり……とかイジる必要がありそうです。
↑こういう面倒な事をするくらいならば、ゼロベースで書いた方が早いですし、楽です。
話はよく書けていて面白かったです。最後の本編の主人王が出てくるのも外伝っぽさが出ていましたし、話もスムーズなので読み心地が抜群でした。
構成ごとがっつり変える必要も無いと思います。
【カジの物語】
https://estar.jp/novels/25496584/viewer?page=37
粗筋
妻の借金でパチンコに行ってしまうような人間だったカジが、改心して三途川組に入るまで。
「〇〇が三途川組に入るまで」という外伝集なので、基本、この流れです。
こちらもリズムの良い会話とテンポ良く話が進むので、楽しく読めました。
話としてもよく書けていたと思います。
個人的には3作の中では本作が一番評価が高いです。
起承転結も良くできていて、離れ離れになった妻子と寄りを戻す為に頑張って成長したのに、結果は別れる事になった、というのが「起と転」として機能していたので、グっとまとまった印象がありました。
結局は寄りを戻せない、という読者への裏切りの内容も、現実味があって大人の読み物になっていて良かったです
夫婦の関係にスポットを当ててあり、先の「イチの物語」とは違った雰囲気でバラエティに富んでいるのも良いですね。
今作も長編にはできますが、イチの物語と同様の事が言えそうです。
借金を追った理由と、その立ち直る切っ掛け、妻との関係性などなど広げられそうな部分は多いのでやってみるのもアリですね。
たぶん、これが一番やりやすく、原型を留めたまま長編になるはずです。
短いながらにも話がうまく纏まっていて楽しかったです。
後、主人公が主人公していました。
やっぱり「転」は、主人公が動いた結果の展開だと面白くなります。
主人公が誰かに矜持され、諭されるというのも無しではありませんが、主人公たるもの自分で結末へ向かって行って欲しいですね。
って事で、私は本作の評価が高かったです。
【ナッチの物語】
https://estar.jp/novels/25496584/viewer?page=60
家庭問題を抱える夏男が放浪していたところ、改心して三途川組に入るまで。
こちらも良く書けていました。
冒頭に印象的なシーンがあり、そこでぐっと引き込まれました。りふるさんは冒頭の引き込み方、フックの掛け方が上手いですね。今回3作ありましたが、全部ちゃんと印象的で引き込まれる冒頭でした。
その分、やっぱり後半にも冒頭を活用できると更によくなります。カジの物語はそうなっていたので、私の評価が高くなりました。
冒頭の内容としては家庭内暴力なので心地良いものではありませんが、ドラマなんてものは不幸大会なのでどこかで不幸を作る必要があります。しかも冒頭に作る必要があります。
「家庭内暴力、いじめ、病気(障害)、貧困(差別含む)」この辺りが不幸鉄板で世界中の物語のうち九割以上がこれなので、使い方で作家性が出てきますね。
今回はページ数としては短いですが、とても印象的に作られていて、かつ痛々しくなかったので、とても読みやすかったです。女性読者ターゲットだとこれくらいがフィットしますね。
その後、三途川に世話になってからも色々な人が優しく声をかけてくれて、とても温かい内容でした。
色々な人が会話に出てきますが、どれも書き分けができていて、誰が話しているのか分からない、と言う場面も無かったのでこれも秀逸でした。
会話のテンポが良くて読みやすかったです。
全体的には周囲の人々と会話で内容が進んでいき、「イチの物語」と似た印象がありました。会話のテンポが良いのであっという間に読めて面白かったです。
強いて言うと尺の割に人物が多かった気がしました。人が多い場合は、優作とかみたいに印象付けのイベントが必要になってくるので、ああいうちょっとしたイベントを作ってあげるとメリハリがついてきます。
逆に言えば、人との関わりというテーマが分かりやすいので、一人一人のイベントを増やして、最後に大事件を起こせば長編になりそうなので、長編化はやりやすそうです。
たぶん登場人物が多いからでしょうが、ややエピソード不足に見えたので、もう少し(補足なども含め)書き足しても良いかと思います。
では、一先ず、今回の3作についてまとめます。
どれも話は面白かったです。会話のテンポも良いですし、シーンも短くて分かりやすいので誰でも読みやすい作りになっていました。
読みやすいだけでなく、りふるさんはやはりセリフの熱が高いのでぐいぐい読者を引っ張っていく力がありますね。
この吸引力がりふるさんの魅力なので、縮こまることなく猛進して欲しいです。
〇 りふるさん作品のまとめ
りふるさんについては、本当に芯がブレないですね。書きたい物が決まっていて、そこに向かって一直線に進んでいく姿は、読んでいて清々しいです。
会話のテンポもよく、スラスラ読めるのでストレスも掛からないのが素晴らしいです。
何度かここで話していますが、キャラクターよりも作者が前に出てきて話出す感じがあり、それがより個性的に見せています。
物語って台詞が全て! みたいなところがあるので、ここで個性があるのは才能ですね。
そうそう見ない唯一無二の感性だと思うので、大切に培っていって欲しいです。
加えて、冒頭の印象の付け方が上手かったり、どの程度の事をやればこの話が終わるのか? というものも毎回ちゃん把握されて作れているので、感性が優れています。
意外かもですが、「どの程度の事をやればこの話が終わるのか?」これを自身で分かってない人は物凄く多くて、「なんでこんなところで終わるの……?」 って作品がアマチュア作品の大半なんですよね。
その点、りふるさんは要点は必ず書き切って来るので、作品への信頼あります。
只、逆に、要点だけで終わらせてしまう事も多くて「ここはもう少し補足書いた方が伝わりやすいのにー」って部分もあるので、推敲の際には新規で読む人を意識して書いてもらえると親切かと思います。
あと、
ここでは度々プロットやら技術的な話をしますが、これは単に私が話すネタがないからだったりします。
これだけプロットプロットといいながら、私自身は本文でめっちゃ変えちゃう人なので「プロット考えてる時間無駄だったかも」って思う事も多々あります。
なので、プロットはなくても大丈夫です。(現場では必須ですが……)
プロット無い方が勢いやパワーが付きますしね。
そういう面も相まって、力強い作品になっているので、スタイルとして変える必要は無いです。
逆に、それで書けてしまうからというのもありますが、台詞で押し切って場面が終わってしまう事も多いので、台詞の厳選や、動きとして場面を作るというのも増やしていくとバリエーションが増えていくはずです。特に「動きのあるイベント」はりふるさんのテンポの良い会話と合うので、多めに取り入れると男性読者も読みやすくなります。
個人的には賞もやってみて欲しいですが、まぁ、それよりは書き続けるモチベーションの維持の方が大切なので、一番楽しい事を一番熱量を持てるやり方でやって欲しいなぁと思います。
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