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「マジ万字企画 【 短編 】編 書評⑤」
【⑪】『誰がために花は咲く』 著:ツルカワヨシコ 様
https://estar.jp/novels/25679728
初参加、ツルカワ様作品です。
こちら作品も凄く好きな作風でした。プロフィールに「10代の頃から温めてきたプロットを、自分の中に秘めたままでは死ねない!」とあり、その文章と内容が非常にマッチしていました。
こうして執筆をされる皆様ですから、十代の頃から夢想少年、夢想少女だったかと思いますが、当時の思い描いた作品って、正直単純で、構成云々よりもシーンを重視していた作風では無かったでしょうか?
因みに私の十代夢想作品は、主人公が「タイムトラベル」して過去の大罪人を捕まえるのですが、それは超科学によって作られた自分であった……って作品ですが、中身は王道で奥行も然してありません。
でも、各所のシーンは凄く覚えていて、今でも思い出すと泣いちゃいます。
本作においても読書中に妙な違和感があり、構成も文章もしっかりしているのに、シーンのバランスが偏っているように感じました。これは悪い意味ではなく、内容的には王道ストーリーのはずですが、独特のテンポで、その原因は見せたいシーンがはっきりと分かりすぎるからかもしれません。この違和感を解消したのが先の「十代から……」のコメントであり、この瞬間に点と線が繋がりました。
やはり、何年何十年と温めたシーンやフレーズには練りに練った歴史が培われていて、作文中に付け足された文章とは、異なる熱量を持っていますね。
内容です。
この世界には「疫病」が蔓延していた。疫病から人を守る剣士であった主人公エスターは、これに感染してしまう。父の助けもあり一命は取り留めたものの、感染状態は免れず、一人で薬草を探す日々を送る。
その最中、国の王女から薬草を採取する指令を受け、王女の腕利き護衛剣士ヴォーグと共にそこへ向かう。苦難を乗り越え薬草を奪取し、護衛のヴォーグとも色恋に落ちるものの、政治的な争いに巻き込まれていく。
シンプルなストーリーラインで読みやすく、色々な要素を含みながらも読みやすかったです。
特に際立っていたのが、主人公の野生感です。気持ちが前へ前へ出ていて、常識を考慮しない狼少女として描かれています。この筆圧に練り込まれた力があり、溢れ、暴走ともいえる行動なのに説得力があり、力強い野生の女性として作り込まれていました。
疫病についても相当に考えられていると見え、こちら三部作という事ですが、本作ではその実態がほぼ描かれていませんが、読者の目に見えぬ場所で、恐怖がこの世界を支配していると十分に伝わりました。
正直、整合性の取れていない箇所がいくつかあり、主人公の力量も疫病対策も不成立なのですが、それよりも「なんだか分からないけど」禍々しい世界観、主人公の暴力的な魅力に溢れています。その後の恋愛要素や政治抗争にも、魅力が溢れています。
こうした作風は、一夕一朝で作るのは難しいです。細かな練り直しにより積み重ねで作られるキャラクターと世界観であり、今書評企画で度々語る「構造」とか「技術」とは別物の、いわば執念のような想いの積み重ねで作られた作品だと重々に理解できます。
この手の代表作家は、私が最も精神的な影響を受けた作家、宮崎駿氏です。あの人のストーリーって、意味分からないです。でも、どのシーンを突いても大量の膿が出てくる濃厚な作品で、ストーリーなんか理解できなくても息を飲む凄みがあります。
練り上げる作品の凄みが本作でも読み取れて、凄く高揚しました。
指摘は前述通り、整合性が取れていない箇所が幾つかあります。が、これを手直しすると「練ったシーン」に影響を及ぼすはずですので、細心の注意が必要かと思われます。
【⑫】『等身大のファンレター』 著:蒼井 祐希(前_一松) 様
https://estar.jp/novels/25551494
最後は常連、蒼井様作品です。書評キラーと勝手に名付けさせて頂いております、速球投手でございます。いつも可愛いキャラクターが登場するので、今回もきっと登場してくれるでしょう。
と、思っていた矢先、外してきますね!
そっちですか。
三千文字以下の短編ですので、一文で内容を書きます。
有名俳優にファンレターを送る男性。
以上です。
一回目の「BL」編での作品も「ゲイ」寄りでしたが、今作もそちらでした。前作は少年が出てくるので「BL」っぽい仕上がりになっていますが、本質的には「ゲイ」寄りです。
私も最近「ゲイ」物を書いてみて、この違いが分かってきましたので、これも含めて書いてみます。
「BL」と「ゲイ」の大きな違いは、「同性愛を許容するのか否か」にあります。「百合」と「レズ」の違いも全く同じです。
BL・百合世界では、これが当然の事象として扱われています。若干の抵抗や隠しはありますが、これが主題に直結してこないところが根本的に異なります。
蒼井様作品、少なくとも一回目と今作は「ゲイ」寄りの話になっていますが、これは「男性が男性に対し感情を抱く事」を主題に扱っています。
具体例が今作。
今作の特筆すべき点で、ファンレターの扱いにあります。
確かに! と、読了後に膝を打ったのですが、男性が男性に熱心にファンレターを送る事はほぼ皆無です。そもそも、女優宛であってもファンレターなんか書きません。本作でも書かれているように、「出しても届かない」と分かっているので、そんな非合理的な事に興味を持つのは一部の人達だけでしょう。せいぜい、アイドルの握手会のように「体験価値」でも無ければ心が動きません。
それを主人公は分かっていながら、一心に決意して、ファンレターに名前(男性名)を記載して送ります。
この心の動きは、ゲイとしての動きです。当たり前に「同性愛」を許容されていない、自身も許容していない、でもそれが本意ではないと悟り「自身」のジェンダーに決意表明するのです。
「自身」に主題を置くのが「ゲイ」物。
「恋愛」に主題を置くのが「BL」。
実際に書いてみて、今のところこうした分類が適正かと考えています。
因みに、私はゲイバーに何年も通っていますが、この手の話は何十回も訊いています。自身がゲイではないかと気づいてしまった時の苦悩など、枚挙に暇がありません。
今作のファンレターの話は、その内の一つであったとしても全く不自然がありません。皆、こうした女性的な感情が自分にあるところから気づいていくのです。
よくここに着眼したと感服致します。今度ゲイバーに行った時に訊いてみますが、これ、たぶんオネエさん達は思い当たる節がある話です。
二度書きます。ここに着眼したのは凄いです。
本当にありそうな話で、たぶん実際に起こっている話です。(本作のように返信が来たか否かは別として)
私は男性ですので、申し訳ないですが女性陣よりもオネエ様達の気持ちは分かる立場です。が、こうした日常生活でありそうな現場の着想はできなかったです。
感動しました。
これ、ゲイバーに持っていったら朝まで話をされるタイプの作品ですね。
今回も見送り三振してしまいました。
毎回思いがけない方向から私の未熟さを痛感させられ、身が引き締まります。後十年ゲイバーに通っても、たぶんこの着想は私には生まれませんでした。さすがです。
【総括】
今回は「短編」という事で募集させて頂きました。理由は①にて説明しましたが、補足しますと、御新規様が参加しやすくするのが最大の目的でした。エブリスタには「妄想コン」という定期イベントがありますので、一作は書いている方が多いかと推測できますし、書籍化云々は別にしてもコンテストに出す以上、本気度が高い手持ち作品があるかと思いましたので、「短編」にて募集させて頂きました。
結果として、常連様6、御新規様6。
大成功です。
狙いすましたかのような数字です。
なぜ半々くらいが丁度良いのか? 単に私が書きやすいからです。常連様は常連様で作品傾向が分かっていますので、前回話せなかったけど……の続きが書けたり、前作今作で比較ができたり、構造により言及できたりと意義があります。御新規様は新しいジャンル解析ができたり、その視点からの論が話せたりします。
これらが並ぶ事によって、作家性が何たるものかを確認できます。
どんな作風やジャンルでも、一番重要な素養は「作家性」に尽きると思っています。
これらを浮彫にする手段は、並べて読んでみるのが最短です。
そうした意味で御新規様の参加は、非常に重要かつ最優先課題です。自身の作品が誰と似ていて、誰と違うのか? を把握するのは、作品制作においても有効な情報となるはずで、一歩上に上がるには必須の試練かと思います。
毎度「指摘」の入る企画ですが、好き嫌いでの指摘はしていないつもりですので、というか、かなり緩い指摘だと思いますので、どうしよっかなぁ……と悩んでいらっしゃる方は、肝試しがてらご参加して頂ければ幸いです。
追伸
「ガチでこいや! って割に指摘が緩くね? もっとくれ!」もしくは「お前の意見だけじゃ参考にならん!」って方々用にコミュニティも作成しております。第二ラウンドご希望の方は(こちらは少しだけ深くいきます)
https://estar.jp/user_groups/topics/32443188
こちらにて色々とお話できればと思います。
――― 次回「秋のBL祭り」 ―――
BL書く! とか言っておきながら、ハートフルゲイストーリーしか書けていない私に、もう一度BLを仕込んで下さい!
可愛い少年!
佐々木!
来たれ!
10/17 20:00~
その次の「恐怖編」で作品が集まる気がしないので、それなりの数募集すると思います!
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