「マジ万字企画 【純文学】編 書評①」

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「マジ万字企画 【純文学】編 書評①」

  まず、今回、募集企画にて投稿して頂きました皆様へ、多大なる感謝を申し上げます。 (こちら前説、募集10分前に書いております)  この度、企画第二弾として「本気の純文学」を読みたい! と募集させて頂きました。  内心、めっちゃ不安です。一人も応募なかったらどうしよう……。理由は二つあり、一つは「現状のシェア」が圧倒的に狭い点です。  狭い理由が、二点目の「なんだか良く分からん」です。  むしろ、その「なんだか良く分からん」こそ、純文学の醍醐味であり面白さであります。徹底的にこの魅力を引き出したい! との思いから企画致しましたが、不安です。  不安に苛まれている作品が多いのも純文学の傾向にありますので、「本気限定」とハードルを上げて大丈夫かしら……、「恋愛OK」ですとか、注意書き入れた方がよいかしら……、誰の応募も無かったら、昔書いた恥ずかしすぎる拙著でもこき下ろそうかしら……、「太宰治」先生の作品書評でも書こうかしら……。(前説終わり)  などと深憂に更けておりましたが、早々にご応募頂き、感謝の極みでございます!  では調子良く、本気の「純文学」作品を募集させて頂いた経緯を、お話します。(余談が長かったので、短く)  上記しました「なんだか良く分からん」が、純文学の最大のポイントです。募集要項にも記載しました「カテゴライズできない」も、結局これに帰結します。  決まったセオリーなどありませんし、むしろセオリー通りに書いてしまうと純文学ファンは冷めてしまいますし、セオリーが無いから「市場」も不明なので確定利潤が必要な商業誌では敬遠されがちです。あるジャンルと並んで「今、二大売れないジャンル」ですが……故にこそ? 巨匠が生まれやすいのもこのジャンルだと(勝手に)推察しています。 「なんだかよく分からん」作品を「やたら力説される」情熱と、一歩踏み込んだ自身との対話(もしくは夢想)が「純文学」の無限の可能性です。  具体的には、後述していきます。私、純文学ファンなので、熱く語ります。  特にこのジャンルは「個性」がほぼ全てと言って良い領域ですので、読者も自由気ままに自己投影して熱くなる傾向があります。この点についての良作がさっそくありましたので、そちらから触れていきます。   【①-A】 『温もり』 著:りふる 様   https://estar.jp/novels/25616446 りふる様作品、二作読ませて頂きました。「純文学」というテーマ的には、こちらが適正かと思われますので、メインで書評させて頂きます。 「少年、猫、女性、神?」が織りなすハートフルストーリー。  一見ありがちなストーリーに見えましたが、全文を通して読むと「書きたい方向性」がしっかりと定まっているので、この内容量が最適解でしょう。  思いっきり文学をされていて、キラキラとした情景が目に浮かぶ様に、宮沢賢治に近い世界観を感じました。幅広い年齢層、特に十代女子などに受け入れられやすい構成となっています。  テーマは「家族」。  三人の登場人物は誰もが「捨てられた猫」の状況下に置かれ、互いの大切さを感じ取っていく……。  と、見えてしまう読者が、一定数いるはずです。それも正解です。私が十代だったならば、間違いなくそのように読み取っています。ストーリーの輪が循環的に組まれて行き、最後のピースでピッタリと収まる様に充足感があり、これだけでも十分な満足が得られます。  でもこちらの作品、それだけではなく、しっかり「文学」もされています。   ここで伝えたい「文学」とは、年齢、性別、その時の環境下において、「見え方が異なる」作品です。  分かりやすい例で、「火垂るの墓(高畑勲監督作品)」があります。  子供の頃に観た時は「なんだ、この意地悪なオバさんは」と思い、就職したての安月給時代は「働け、坊ちゃんニート!」と思い、今では「節子ちゃんが、『女』だな……」と、自身の年齢や環境で見え方が変貌していきます。  良い作品は何度も読めます。最大の理由が、この多面性です。  さて、りふる様の物語のラストですが、「ハッピーエンド」なのか、否か。  私にはワンピース欠けているように見え、哀切を覚えましたが、皆様はどうでしょうか? (指摘ではありません)  「家族円満のハッピーエンド」も勿論、正解です。どの視点でも正解ですが、「今の」貴方(読者)は、どの様に汲み取るのでしょうか? もしくは「十年後」の貴方は、どのように汲み取るのでしょうか?  「読み手によって見解が違うのは当然」との意見は全くもって正しいのですが、然しながら、ラストにこうした不穏をサラっと「問題提起」してくる辺りに、文学の芳香が匂うのです。  このような余韻を残す作品を読むと「文学だ!」と頷いてしまいます。  純文学ファンは、匂いが大好物!  これは、文学です!  作者意図への客観的アプローチを心がけましたが、この匂いに酔いました。誰かに話たいし、それが勿体ないとも感じる熱情がありました。  後、神様がユニークで可愛かったです。あの神様の態度にも意味がありそうですね。(この様に拡大解釈していきます) 【①-B】 『三途川一家の優しい面々(Jの物語 番外編)-完結-』 著:りふる 様    https://estar.jp/novels/25496584  こちらシリーズ長編となりますが、そのうち『テルの物語(P209より)』読ませて頂きました。こちらは軽くいきます。  シリーズ長編という事で、外伝的な一幕です。登場人物が丁寧に纏められていて、背景設定もしっかり折り合いが付いています。  主人公が「なぜ」ヤクザ組織に入り、そこで何を感じ取ったのか?   実直真面目な面々に囲まれる生活の中で、台詞もそれに準じていて不自然なく、この組織の一員となる理由が会話や行動で示されているのが好感でした。(会話はもう少し省いていいかもしれません)  この「不自然なく」について、少々ご説明をさせて下さい。  全文を通して、主人公が非常に真面目である点には疑いがありません。同時に、ヤクザの親分も真面目です。  同じ真面目でも、「思考レベル、方向性」に大幅なズレがあると不自然に見えますが、今作ではそれが無く、同僚達も同じ領域(レベル)、同じ方向性に思考が在る事で、「不自然なく」主人公が仲間入りを果たせるであろう表現が成されていました。逆に言えば、大幅なシーンカットが可能です。  ※可能というだけで、やるやらないはセンス、バランス感覚の問題ですので、私から口出しはできません。シリーズ作品という意味においても、です。  全体的な纏まりは良いのですが、折角のアンダーグラウンドですので、もう一歩踏み込んで「このキャラクターならこう言う」から「私なら、こう言う」が発露されてくると物語が躍動していくはずです。それができる土壌設定ですので、もっと攻めちゃってOKかと思います。 『まとめ』  色々な表現を試行されているようで、二作読ませて頂きましたが、全く毛色が違って感動しました。  置きに行った感想を並べる事も可能ですが、率直に書きます。  正直、まだまだ書き足りてないですよね?  最初の作品に「文学」蘊蓄を差し込みましたが、「純文学」の根本は熱意です。基本、これだけです。  歴史の教科書に載るあの文豪達は、本当に命がけで文章を書いて、実践までしてしまいました。(こちらについての賛否を問う場では無いので割愛します)  作品から、物凄い熱量がありました。「これも書きたい、あれも書きたい」という感情を抑え、それでも抑えきれずに書いてしまう情熱が溢れ出ていました。  書ける時に書けるだけ書いた方が良いです。「今」残せる物は、後からでは手に入りません。  おそらく、全てを書きっても、まだ不満があるはずです。  それだけの熱量が容易に見て取れましたし、人はその姿に感動します。フルスロットルでどんどん書いて欲しいです。 (②へ)
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