有月 晃

「時折、ただそこに居るだけで、人を惹きつけてやまない人がいる」という著者の冒頭の言葉に賛同しつつ、読み進める。 いつも通り、スムーズな滑り出し。シンプルな言葉、短い文章を連ねて、読み手をサラリと世界観に引き込んでいく。 今回の主人公は男性、ビジネスパーソンらしい。私としては感情移入しやすい。客先訪問前にカフェで見掛けた女性に一目惚れ……かな。 主人公の日常が少し綴られて、やがてヒロインと偶然の再会を果たす…… うん、定番の流れだな、と思い始めたところで、ふと違和感。 今回のヒロイン、なんだか、やたらと……ガードが硬い。いや、少し違う。むしろ臆病というか、男性を避けているきらいがある。 その理由は、読み進めるに従って徐々に明らかになる。この過程は、痛みを伴った。ヒロインの心中、そしてそれを描いた作者の過去を思うと胸が酷く痛む。怒りと、やるせなさと……同族嫌悪。 男性ならば、多かれ少なかれ胸の内に燻らせている本能。それを解放する、しないは別にして、そこに存在していることは決して否定出来ない。 この作者を、侮ってはいけない。彼女が書く作品にはいつも、リアルが埋め込まれている。多作だがどの作品も、ただの恋愛小説だと思って手に取ると裏切られる。良い意味で、胸に鋭く刺さる棘が埋め込まれている。 中でも、この作品は社会派……とまでは言わないまでも、女性であれば誰しも感じたことがあるだろうテーマを扱っている。それだけに、出来るだけ多くの読者に届いて、気付きとなって欲しいと願った。 長々と語ったけれど、これがこのレビューを書くに至った動機。 どうかこの作品が、仄暗い海の底に囚われている人達への一縷の光とならんことを願う……
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素敵なレビュー恐れ入ります。紙に印刷してとっておきたいくらい…嬉しい内容でした。 なるほど、男性から見るとその様な感情を抱くのですね。 そうなると、作中に出てきた男性達もヒロインに手を差し伸べつつ、どこか後ろめたさみたいのがあったのかもしれません。 ヒロインに手を貸すことで自分はそうじゃないと証明しようとしていた可能性もあります。 理由はどうあれ、困っている時に助けてくれる人は必ず居るのだと信じています。 今、苦しい思いをしている人にそれが届けば作家(見習い)冥利に尽きます。 レビューありがとうございました! プリントアウトしないと…(笑)
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こんばんは。作品に込められたテーマに、少し過剰反応してしまったかも知れませんね。 さて、作中に出てきた男性達の動機…… どうでしょうね。そういう意味で、180ページから始まる荒井氏とのやり取りはとても興味深かったです。 後ろめたさ、自分は違うと反証したい欲求、小さき者や弱き者を無条件に守りたいという衝動、あるいは偽善、憐憫、下心、もしくは無私の思いやり…… 加奈の力になろうとした男性の胸中には、きっといくつもの感情がせめぎ合っていたのではないでしょうか。こう見ると、男性もなかなかどうして複雑な生き物に思えてきます(笑 ところで、話は変わりますが。私が以前勤めていた組織のトップが「人は
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