更新分まで読みました。まずは、読者としての感想を述べさせていただきます。 297ページが殊更にもったいない。 二つの明らかにことなる世界線が同じ時間軸の上に存在していて、日本からみてどこにあるかわからない『もうひとつの世界』の存在は、読者にとって、この物語中大きな謎のひとつです。 世界観があえて曖昧に作られているファンタジー系の物語は、ある種ミステリーのようなものです。物語の進行と共に謎が解けていく。人間関係や個々の持つ能力の特徴はもちろんファンタジーの核ですが、それらも大局的に見れば作中の問題を解くためのヒント、ということになります。この物語の場合、現状で言えば、二つの世界、灰の子、光の子、闇の子が交わったとき、果たしてどのような化学反応が起きるのか、それが当面の『答え』であり、読者はその回答を導くためにストーリーを読み進めます。 そんな中で、託叶くんと南くんが、その謎の核心に『図書館で偶然見つけた本』で迫るというのは、かなり良くできた展開でした。それは、物語中の登場人物にとっては些細で何の意味もなさない情報でしたが、読者にとってはほぼ『答え』のようなものです。それが真実答えであろうがなかろうが構わなくて、あの時点で読者は『失踪した奴隷』が『闇の子』たちの生きる世界線の住人、彼らそのものであることに、 絶対に気づきます。 そうなのだ、と思わせておけば、作者としては勝利でしょう。その時点で読者にとっては『未確定の確信』です。そうには違いないが、まだはっきりしない……という感覚でしょうか。 それが最終的に、裏切られれば「あっ、まさかそういう展開に」という感心を得られますし(≒ミスリード)、そのままであれば「あの伏線はやっぱりそういうことだったのか」という全うな感心を得られます。 それが、物語の『伏線回収』というものだからです。意味の曖昧なものが、確実な意味を持つ瞬間、それが読者のエクスタシーを誘うものだと考えます。
3件・2件
それだけに、ですね。 成瀬くんの 「まるで、大戦争時の、人身売買の行方不明者たちみたいだな」 という発言 これは全くもってその謎の有意を無に帰す、物語中最大の失言でした。読者としての僕は、この台詞にとてつもない喪失感を覚えました。たぶん、最後まで読むという約束でなければここで続きを読むことを諦めていたかもしれません。 読者は、知っています。真実かどうかはともかく、作者である青泉さんが、読者にたいして『奴隷がもうひとつの世界線の住人である可能性』を、意識してもらいたいということを。そして、あの図書館での展開があれば、誰でもそれを意識します。 あえて、あそこで真相に近づけさせる必要
2件1件
さて、悪い点ばかりあげるのもおかしな話です。本質的にはこの物語は面白いものです。僕はそう思います。 この小説最大の魅力は、僕のなかでは揺るがずサイキさんの母性愛です。全体通して、どことなく感じることがありました。 この物語は、とても優しい。人間が人間たる心を失っていない、ギリギリの理性でなんとかとどまり続ける世界。 闇の子を外に出すと決まったとき……放っておいたらさらにとんでもない厄災を起こすという危惧があったにしても、最初にそれを命じた人たちは揃って後悔をしました。母親も、我が子を出すことには反対していたが、結局名前は教えた。たぶん後悔があったんでしょう。サイキさんは、未来を見てすぐに
2件

/1ページ

1件