いつもながら、水底で歪む月を眺めいるような感覚におちいる表現力には舌をまく。 読者をスルッと違う座標軸に誘い込む物語。 どうしたらこれほどのオリジナリティが生成可能なのか、うがって内実をのぞき見たい気がする。 しかし、手札を盗み見たところで模倣できるものでもない。 種明かしよりショーを楽しむことが肝腎だ。 『ルリボシの夏夜』ーーこの作品は、作者が意識的にそうしたかどうか分からないが、とても視覚的だと私は思う。 といってこれは、いわゆる〝映画のような〟というのとはまったく異なる。 ではどういう意味でかといえば、演劇を見ているような、である。 映画とは距離感が違うのだ。 一読者に過ぎない私のごくパーソナルな体験で恐縮だが、読み始めた当初、なぜか背景が単色(黒)木版画調だった。 色の表現は随所でされているにもかかわらず、私の頭に浮かぶ像(妄想)で色を持つのはごく一部、ことに、主人公夏目が生後まもなく母親に首を絞められ落命した哀れな赤ん坊の〝成長した幽霊〟よう香と出会うまでの超現実ーー年季の入った地図のようにすすけてガチャついた町中で相対する虫ーールリボシカミキリーーにあてて、彼女の幸せを願う手紙を投函するところや、夏目を取り巻く脇役たちの手前勝手な様子ーーなどがすべて、木版画調の背景を背負って展開される。 夏目の動きはややカクカクしていて、85年に大ヒットした『Take on Me』のPVを連想する(あくまでも個人のイメージ)。 そしてその摩訶不思議な読味は、物語の進行にともなって徐々に色味を増していき、最終的にはフルカラーになる。 痛々しいまでに鮮烈な夏の天然色に。 通常、文字によって形どられる情報を追うだけでは、このような視覚の同時刺激はあまり起こらない。 ところが『ルリボシの夏夜』ではそれが起きる。なぜなのか。 勝手な解釈だが、作品が演劇的手法で描かれているからではないか……そんなふうに考えたらうまくすわってくれた。 これが作者の意図と大幅にとかけ離れていたとしても、私にとってこの作品はそういう作品だ。 さて、みなさんはどう感じるだろうかーー。 Massive Attack - Psyche https://youtu.be/gU-gz06cJCc (イメージソング(笑):ご覧になるかたは虫がいっぱい出てくるのでご注意ください)

/1ページ

1件