どこまでも深い優しさの裏にあるもの
普段青春ジャンルやヒューマンドラマをあまり読まないのですが、本作は読んで本当によかったと思います。名作でした。 居場所を見つけられない少女なな。彼女の苦しさ、安堵、葛藤、喜びや悲しみが繊細な筆致で描かれており、心理描写が実に読ませる作品です。 罰ゲームだと隠して誰かと仲良くしようとする、ネタ晴らしをして傷付いた顔を楽しむ。いじめとしては軽い方なのかもしれませんし、当人たちはいじめとも思っていないのでしょうが、ななが苦しむ姿を見ると、いじめとは行動の内容ではないと思い知らされます。後ろめたさを隠しながらも伊原に接する彼女の姿は、痛々しくて胸が苦しくなりました。 しかし、伊原は少々風変わりな少年でした。鈍感気味でどこかズレたような彼の自然な優しさに触れて、伊原を好きにならない読者がいるでしょうか(反語)途中からはななと一緒に彼に恋する乙女の気持ちを味わいました…✨ 神堂くんとのペアがまたいいんですよね…本題から逸れて申し訳ないのですが、ブロマンス至上主義としては最高の親友たちでした。 その神堂ですらこじ開けられなかった伊原の心にななの何が触れたのか。それが明かされる時、思わず胸が締め付けられました。彼の語るななの表情が目に浮かぶようでした。伊原が抱えていたものを知った時、彼が都合のいいヒーローではなく過去のあるひとりの人間だったのだと、改めてこの物語の深さを知りました。 特筆すべきはいじめている側と思える多香子や若葉の存在。 彼女たちにも抱えているものがあって、それが抱えきれなくなって綻んでしまったものが、他者への悪意などの滓となって現れるのだなと、思春期の不安定さを感じました。一辺倒でない人物の描き方は本当に見事です。 以下、結末のネタバレに少し触れます。 伊原を想いながらも、それでも他の誰かと歩もうとしているなな。思い描いた通りの未来にならないところが、現実の無情を感じさせます。 だからこそ、「箱庭」。高校時代という区切られた時間の中で育まれてきたものは、箱庭の外まで持ち越せるとは限らない。「箱庭」という言葉を使った彼女に諦めのようなものを見ました。きっと、彼女の想いも箱庭の中にしまってしまったのでしょう。 それでも、二人の想い出はきっといつまでもそれぞれの支えになり続けると信じています。 長くなりましたが、素敵なお話をありがとうございました。
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かみのよいずひさ(十二月)さま、レビューありがとうございます。 1時間超えの作品を最後までご覧いただけるだけでも有難いのに、「箱庭」の考察や登場人物に寄り添った長文までいただけて、胸がいっぱいです。 本当にありがとうございます。 実は、いずひささまのお好みのジャンルからは逸れる作品を安易にお勧めし、申し訳ないことをしてしまった、と内心反省しておりました。貴重なお時間を奪ってしまわないか心配だったのですが、気に入っていただけたのならば、心から嬉しいです。ありがとうございます。 ななの苦しみや切なさ、伊原を想う気持ちがフルで伝わるような心理描写を目指していたので、お褒めいただき光栄です。ありが
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いずひささまの仰る通り、エピローグは現実の無情さが一つのテーマでした。伊原は一生忘れられない大切な人。けれど、胸に空いた大きな穴を一人で抱えて生きていくのは、とても耐えられそうにない。そんな思いから伊原に似た"彼"と付き合うことを決めたななの弱さとある種の強かさを描きたかったのかもしれません。 伊原の現在については触れていませんが、彼は未だ誰とも付き合わず、「なな」と名付けた犬と暮らし、寂しい時はそっと抱き締めています。 【高校時代という区切られた時間の中で育まれてきたものは、箱庭の外まで持ち越せるとは限らない。「箱庭」という言葉を使った彼女に諦めのようなものを見ました】
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