布原夏芽

「体は同性愛、でも心は異性愛」から、「体は異性愛、でも心は同性愛」へ。
 絡み合う性と愛に引き込まれる作品でした。鳴海の三人称が“彼”であることで外の目線を忘れるなと言われている気がして、でも最終的には男女を超越したものへ収束するストーリーが素晴らしかったです。  踏ん切りつける“男らしさ”を持つ鳴海が檸檬の苗木を買い、新しい風を吹かせる姿は力強く、「うまくいかなかったらまた考えたらいい」の言葉が清々しい。ベランダで育つ檸檬が目に浮かぶようでした。半径5m以内で恋愛はうまくいかないと絶望した成美が、幸せは手に入るところに転がっていると考えるようになる姿にも希望を感じました。  モチーフの意味を考えるのも楽しかったです。拓磨を描く鳴海。莉緒を描く拓磨。再び、死んだ拓磨を描く鳴海。恋人を想う描写に絵が出てくるのが印象的でした。他にも、元彼にもらったライターを通じ出会った愛人、コーヒー(多数派)に戻ったのにまた飲むことになる紅茶とか。  その究極が題名のレモンピールですよね。「おばあちゃんの味が好き」と言う兄に近くあろうとした成美の象徴でもありますが、苦みを活かして作り変えたのがレモンピール。時に苦かった拓磨との過去を基盤に伴侶となった鳴海と成美が重なりました。  成美→鳴海の妻公認で交際を許す発言は、鳴海→拓磨の「浮気してもええで。他の子とでも幸せになってほしい」の言葉と呼応しているように見えます。結婚に囚われず相手の幸せを望む究極の愛ですね。鳴海の「ナッコを置いていく訳ないやんか」には、恋愛を越えた同志の絆を感じました。  脇役との対比もよかったです。何でも与えられてきた見合い相手、欲しい女を力尽くで得る講師。一方、ナルミたちは自己の根幹に関わるものが手に入らず、でも強奪する身勝手さには走れない。だから悩む。迷いなく「ステレオタイプな色気」を出せて「男らしい煙草」を吸う莉緒も、家族を失うまでは恵まれた側の人間だったのでしょう。  莉緒と拓磨の関係は、人間の極致のように感じました。生き方の結論を出すのに必要な戦友みたいな。兄の死後十年を経ても墓を訪れる彼女の姿に、成美も察したのでしょうね。鳴海に話したところから、成美は兄の不倫を汚点ではなく、強い絆と捉えたように思えました。  爽やかさもつらさも含め、とても愛おしい作品でした。 (自分も考えた台詞や展開が、別の作中で動くのは初めての経験で面白かったです。物語が魅力的だと本当に引き立ちますね)
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布原さん 本当に細かいところまで目を通して頂き、(また誤字報告もしていただきまして)ありがとうございます。 また、細部に渡る台詞や小道具にまで着目してもらえるなんて(・・ライター、コーヒーや紅茶にレモンピール。)自分で書いておきながら気づかなかった観点に驚きもあり、「言われてみれば確かに」と、感心しました。 「ナッコのことを置いていくわけないやんか」という台詞は拓磨の死後の世界を生き抜く成美と鳴海の強い絆を表す言葉ですよね。 そして莉緒と拓磨もまた、仰るように戦友のような不思議な絆があると思っています。彼らのしていることは不倫だし、かりそめの関係なんだけど、とても重要な関係性というか・・
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(続き) 今回の話は、恋愛に関してネガティブなワードを随所に入れています。 「生まれ変わっても今の相手と一緒になりたいと思う既婚女性は3割程度。結婚なんてそんなもの」 「半径5メートル以内の恋愛はすべてうまくいかない」 「私だったらお見合い相手と結婚して、鳴海って子とは愛人関係を続けていくと思う」 「私は恋愛至上主義じゃない。」 「条件だけで打算的に相手を選んで結婚した」 などなど。 自己の根幹に関わるものがどうしても手に入らなくて、強奪する身勝手さにも走れない。だから自分を慰める為に「恋愛も結婚も所詮こんなもの」と後ろ向きな言葉を吐く。主人公達は皆悩んでますね。 そして、若い頃に思い
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丁寧な返事をありがとうございます(^^) 文字数オーバーで端折ってしまいましたが、コーヒー=ニューヨークにいるアメリカ人(多数派)、紅茶=ニューヨークにいるイギリス人の対比で読みました。 莉緒が「喉が痛いから紅茶にして」と言ったのが、少数派(同性愛)を抜け出した拓磨が、ひょんなこと(ライターを拾われたこと)からまた異邦人(不倫)の側に戻った暗喩なのかなと。 鳴海もコーヒーではなく紅茶を淹れていたし。深読みだったらすみません。 自分もかつて挑戦したのに近い題材だったので、他人事じゃないというか、非常に色々なことを考えながら向き合い読んだお話でした。 そうか、ビターエンド。そういえばニコマジのと
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莉緒と拓磨のシーンで紅茶を淹れたのに、そこまでカッコイイ暗喩は込めてはいなかったつもりなんですが💦^_^ ただ、鳴海が紅茶派なのはスティングがEnglish Man in New Yorkで暗に示した性的少数者と重ね合わせた部分があります。 最後のシーンでコーヒーを飲んでいた成美は、「一般的な男性と結婚するという世間の多数派に自分を当てはめようと努力していた」女性なのかも。 ビターエンド・・布原さんの物語も凄く爽やかさというか、つらさがありながらも希望を持たせてくれる結末であるように思います。(真由と敦の物語、敦と飛鳥の後日談など) そうそう、ニコマジもビターエンドでした。陳腐な言い方
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