内田ユライ

もしも、をシミュレートした世界を体感する。
私事ですが、制度開始初期に裁判員裁判に選抜されて体験したことがあります。 語弊を恐れずに感想を述べれば、(現状で犯人が反省していなくても)考えうる罪状を贖う期間は最も軽い判決が出される——というのを目の当たりにしました。 選ばれた裁判員が全員一致で厳罰を処そうとしても、裁判官が一名、同意をしないと通らないので、実質、裁判員の判断は『裁判官の参考』としかなりません。 日本の裁判は『改心するのを前提』、良心を信じている社会ということになります。 さて、本作は罪を犯したらまちがいなく厳罰に処される世界を描いています。 当然、厳罰が前提ゆえに、罪を犯したらどういうリスクを負うのかをまず考え、まっとうに生きることを強いられる社会です。 警察に籍をおくことで特殊な能力を得た刑事たちが、罪を犯す者の背景にどうしようもない葛藤を抱くのが第一弾の「BORDERLINE Ⅱ Case 01 割れ窓」。 今回の「BORDERLINE Ⅱ Case 02 焼け墨」は、犯罪集団の裏を暴こうとする者たちの話となります。 正義を貫くために闘う刑事と、信念を貫くために罪人側に堕ちた者との葛藤の描写がみごとです。 それにしても、相も変わらず筆致がほれぼれするほど素晴らしい。 見習おうとしても、なかなかここまで至るにはどうしたらいいのやら。 頭の中にするするとストレスなく、世界観が無駄なく広がる文体って……本気で羨望ののまなざしでひざまずくしかありません。(ありがちな誤字、誤用がないのもすごい) シリーズ3作目もこれから拝読させていただきます!!! 今作で主人公が物語の終わりに固めた決意が、この先どのように影響し、展開していくのか、とても楽しみです。
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内田ユライさん 最後までお読みいただき、ありがとうございました。実体験を交えた素晴らしい感想にもとても感動しています。 裁判員制度への参加とは素晴らしい体験ですね。実際、日本は人間の良心を信じているルール体系だと思います。 逆に本シリーズでは人間の良心を信じない社会を描いています。主人公ヴァンは人間の良心を信じる優しさを持った男で、彼の「正義」は厳罰化社会とは対をなすもの(間違いを認めてやり直すことが大切)としています。 個人的には、社会は「信頼」で成り立っていると考えています。しかし、その信頼を裏切るようなマナー違反や犯罪が続けば、人々の信頼関係が瓦解し、まっとうに生きることをルールによ
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