昭島瑛子

儚い光を求める追憶の物語
プロローグとエピローグのつながりが秀逸な作品だと感じました。 「彼」の帰りを待ちながらキッシュを作り、テレビから流れてきた10年以上前のヒットソングを聴いているうちに17歳の記憶が蘇るプロローグ。 エピローグではプロローグで作っていたキッシュが出来上がり、読者の期待に反し伊原とは違う「彼」と食事をする。 読者が読んできた伊原とななの物語は、キッシュを作り始めて彼が帰ってくるまでの数時間に浸っていた追憶だったのだとエピローグで気づかされます。 プロローグでなながキッシュの生地を撹拌しながら「それぞれが自分の思想や哲学や矜持を持って生きているから、厄介なことになるのだ」と思っているのは17歳のときの多香子たちとの一件の影響でしょうし、エピローグでは完成したキッシュを「大きかったり、小さかったり、具で溢れ返っていたり、中身が空っぽだったり、まるで、私たちみたいだ」と思っているのとつながります。 青春物語が多くの人に好まれるのは、人生の中のごくわずかで輝いて見えて、そしてもう取り戻せない時間を描いているからだと思います。 ななと伊原はもう会えない。それでも日常のふとしたタイミングで、何度も色鮮やかに蘇る。それはラストの一文にもあるように「たった一つの儚い光」なのでしょう。
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昭島瑛子さま、レビューありがとうございます。 本作は元々妄想コンテスト「ねぇ、覚えてる?」に応募するつもりで書き始めた作品でした。 テーマから回想方式にしようと思い至ったのですが、処女作ということもあり、上手に扱えるか不安でした。 ですが、今回昭島さんにお褒めのお言葉をいただき、この構成にしてよかったと思えました。ありがとうございます。 プロローグもエピローグも、昭島さんの仰る通りでございます。 ななが箱庭に囚われ続けていることを汲み取っていただけて、報われる思いです。 「それぞれが〜」と「大きかったり〜」を繋げたのは、回想を経てもななの心境に変化がないことを伝えたかったからです。 伊原を失
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