出雲黄昏

うがった読み方かと存じますが、深い作品であることに他の読者も異論はないでしょう
独自の解釈になるかもしれないが、しかし読者として誤解を恐れず感想を述べようと思う。 まず安定感のある、破綻のない文章力はさすが。としか言いようがない。秀逸な文章ってのは、それだけで心に響くものがある。つまり、物語の筋に関係なく感動してしまう。その域にある。 序盤の引き込みがえぐい、特に5ページ目「記すこと」。これは個人的な好みだけれど、ぐっと心を掴まれたページですごく印象的だった。 ノーラの病状から、エンジェルバードというタイトルの、ある意味伏線回収を早々に終わらせていたし、終わりもある程度想像しやすい構成になっている。 悲しみを超えた先の、救い。なのだが、死のシーンをクライマックス、感動的な演出としなかったところにも、妙があり面白い。 主人公の性質から、理系っぽい科学者的な側面を考慮したリアリズム的なハッピーエンド。表面上はそうなっている。 ここからが、僕の個人的な感想、というか歪んだ視点の解釈になることを前もって言っておく。 これはハッピーエンドのように見えて、そうではない。エリカは気弱で優柔不断な性格であったと自分を冒頭評している。そんな彼女がノーラを安楽死させたとき、どう思っただろうか。トーマスにとってのノーラは、最愛の妻の分身、あるいはそれ以上の存在であったはず。この両者がエリカの望む未来を叶えてあげた。救われない大人ふたりの自己犠牲的な美しさもあるだろうが、少し違和感がある。言語化できないが、だからこその文学なのだ。 最後、科学者然とした手法、理屈で大空を羽ばたかせた。とても科学的。 これらを見た僕は、なぜさみしさを覚えたのだろう。だれにも救うことのできなかったノーラ。彼女を救ったというのに。合理的で、正しい選択を取ったというのに。 そして、それらを考えさせられる終わり方、余韻。総じて素晴らしい作品。 作者の秋月さんの意図するところではないかもしれないけれど、読者として楽しみましたので、感謝を込めて。
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黄昏さん、ステキなレビューありがとう💕 この作品は、難病に対して希望を見出す作品ではあるけど、単にハッピーエンドではないエゴも入ってるの。 前提に希望があり、裏はかなりシビアで、それをもれなく記すには、15000字は必要だったと思う。 でも、前作『姉妹が赤心に酬い』が重厚だったので、この作品の本質を描き切るとまた命の価値に触れるため、ライトに仕上げたんだ。 機会があれば、文字数を伸ばしてみたい作品。 当分はしないだろうけど笑 歪んだ視点の解釈と言いつつ、的確に物語を捉えてくれて、すごく嬉しいレビューだった。 科学者的な側面にアプローチをかけているから、強いワードとして『リサイクル』を用いた。
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