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「マジ万字企画 【 短編 】編 書評①」
まずは、今回、募集企画にて投稿して頂きました皆様へ、多大なる感謝を申し上げます。
今回で第五回目となりますが、満を持しての「短編特集」となります。
と言いますのも、BL編は別にして「文学性」「キャラクター」「謎」、この三要素の成立を如何にまとめるのかが、短編の肝であり、構成や作家性の粋が集まるのも短編でございます。
短文で読みやすいから、を理由に早期開催してしまうと論旨が伝わらない可能性がありましたので、まさに満を持しての特集になります。
他にも、より沢山の作品をテンポよく要点を伝える形式での書き方もしてみたかった、沢山の方に参加して欲しかったなどの理由もあります。
作家性の現れやすい短編です。
どのような表情が見られるのか、ワクワクしますね!
では、参りましょう。
--- 追記 ---
今回からコミュニティ「万字グループ」を開催しております。
私の意見は偏っているのと2000文字程度で書いているので、より詳細に! もっと他の方の意見も聞きたい! などの方は
https://estar.jp/user_groups/topics/32443188
こちらにて語り合いましょう。
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【①】『犀の背中』 著:樫村 雨 様
https://estar.jp/novels/25541048
万字界の川相こと、樫村様作品です。(もっと別の選手で探していたのですが、やっぱり一番フィットしました。九十五年の無失敗四十七犠打は圧巻です。六度のゴールデングラブ賞もあり「試合職人」という名前がピッタリですね)
さて、論理的な構成で……、そう読み始めたところ、「そっちの論理?」 ぶっこんできましたね。
以前芥川龍之介のアフォリズムに少しだけ触れましたが、こちらの系統です。
サイと人間。
この差異による感覚の違いから「貴方は何を読み取りますか?」との問いかけをもたらす作品構造になっています。
アフォリズムとは「どれだけ簡単に物事を表現するか」を求める作風で、「格言主義」とも呼ばれますね。ストーリーは実に簡単に、でも言葉一つ一つを計算し、無駄のない……どころか、昇華させた言葉を突き付け、そこへ誘導する作品群です。
また幅広い読者層を想定しているので、冗談やユーモアが際限なく使用されるのも特徴的です。(芥川龍之介「鼻」など)
本作でもまさにユーモアたっぷりの言葉遊びで、その際、格言によってキラっと光る刃が再々登場し、物語に奥行をもたらしています。サイと人間が対話するだけという単純明快なストーリーに、幻想的な要素であったり、所々で格言を飛び込ませていて読み物としてもとても面白かったです。
テーマも「主観」「表象」と言った哲学的で普遍的な問いですので、読者によって読み方が変わる多面性もありました。
樫村様の文体は非常に柔らかで、ジョークがとても伝わりやすく、コメントが非常に多かったのも頷けます。読者の介入しやすい雰囲気が漂っていて、親しみやすいのだと思います。
エンターテイメント、読み物、どちらも最上に生き生きとしていて、アフォリズム精神が上手く再現された、素晴らしい作品でした。
その場面によってはクリーンヒットも打てる、試合職人の采配でした!
指摘は……、んん、格言に、(意味不明であっても)なんだか凄く強烈なモノが一つはあっても良いかもですね。ジョークの方がバランス的に強くなってしまっているので。
【②】『鯉女(こいのめ)』著:紅屋 楓 様
https://estar.jp/novels/25543950
連続安打記録を更新中、安打製造機の異名を(勝手に)名付けさせて頂いている、紅屋様作品です。
前回は「大正」、今回は「平安?」を舞台にしたお話です。
鯉に恋した御話。
サイだの鯉だの生き物シリーズが続きます。今回は単に参加順で意図も無い掲載順ですが、比較すると顕著に作家性の違いが滲み出ます。(良し悪しではありません)。
特に「現代」と「古代」に舞台設定が分かれている所に注目が集まります。というのも、樫村様作品はテンポよい会話のやりとりでファンタジックな世界観になっていて、紅屋様作品は、古典的な文体を基調とした美麗な世界観となっています。
なぜ、このように別れるのか?
時代設定の必要性です。
今作は古典風に仕上げられていますが、現代ファンタジーと大きく異なる点があり、それが「神霊物への諸対応」でしょう。
古代の人間達にとっては「神霊」を当然の事象として受け入れる節度があり(実際にそうであったかは問題になりません)、鯉が化けて出て会話を始めても、それはそれでありです。
「ファンタジーだ!」とも思いませんし「ホラーだ!」とも思いません。当たり前の事象として読者が捉えますので、よって、美麗な文体へと意識が向かいます。(現代で設定するとファンタジックになりますね)
鯉が化けて出た事よりも、その内容に注目が集まります。
前回の「大正」を読み始める前、そして今回も「なぜこの時代にしたのだろう?」と疑問を持つのですが、「この時代背景だからこそ」の理由が組み込まれていて、疑問をきっちり解消しているのがとても心地よいです。
また主題の問いが「抑圧」であり、これらが解放される事で恋愛感情へ結びつき……、というオチへの根拠が普遍的で、現代人でも共通する認識の範囲内での仕上がりになっていて、決して現代読者を見放したオチになっていない点も心地よさの一因でした。
んん……。本当はもっと「文」について触れたいのですが、能力上、その辺りに触れられない私の力量が残念です。
一応、指摘です。(これが指摘になっているのか疑問なのですが……)、ちょっと纏まりすぎている気がしました。今作はそちらを重視されたのかもしれませんのでこれはこれで良いのですが、毎回どこかしらに刃物のようなギラつきがあるのですが、(見落としかもしれませんが)今回は薄かった気がします。最後がそうと言えばそうなのですが、少々ボンヤリ感がありました。(この良し悪しは読者次第ではありますが)
【③】『燠火』 著:鷹取 はるな 様
https://estar.jp/novels/25509329
まだまだ続くレギュラー陣。万字界のマイク・ベルナルドこと(格闘技も取り入れていきます)鷹取様作品。
前作ではぐいぐい行くのにちょっと奥手な先輩でしたが、今作ではぐいぐいくる後輩。この「ぐいぐい来る感じ」が鷹取さんの特徴ですね。
毎度「直球投手」枠に含めさせて頂いておりますが、その理由も含めてご紹介します。
毎年恒例のキャンプに参加する主人公と、主人公の嫁の後輩。バーキューの後、妻達は酔い潰れ二人だけが炭火の前で……。(BL)
まぁ、隠す必要のないオチが待っている分けですが……。鷹取様作品は「攻め」「受け」がはっきりしています。物語がこの先どう展開するのかも手に取るように分かり、だからこそ「ぐいぐい来る」キャラクター達に没頭できます。
ポイントは「この先が分かる」にあります。その下準備が非常に上手いのです。
言動で、いとも容易く状況や心情を伝えられる特殊能力があるのですよ、鷹取様は。
よく「行動で見せて」とか「文量バランスが」などと書きますが、おそらく技巧派の皆様にとって、一番難しい演出要素だと思います。如何せん、想定していたように伝わってないのです。
余談ですが、本来「書評」は指摘をするためのツールではなく、「宣伝」を目的とする論評で、指摘は不要です。ですが、指摘を求められる事が非常に多いので加えています。その理由が、たぶんこの部分で「伝わっているのか自分で判断できない」から、だと思います。
こればかりは「自己判断」が難しく、そして概ね百パーセントは伝わっていません。
でも、ほぼ百パーセントを伝えていて、深読みするタイプの読者でも納得できるだけの「行動」を、しかも単発でテンポよく放り込んでこられます。
ですので、何が伏線で、この先どう展開して、見せ場がどこか、読者がはっきり分かります。故に、一番の見せ場が突起して映えます。
所謂、王道ではあるのですが、王道は才能です。
具体的にどういうテンポでどんな演出をすれば読者の邪魔にならず見せ場が目立つのか、なんて誰にも分からないですし、狙ってやるのは困難ですので、センスといえます。
こうした感性の塊でぶっ飛ばしてくる辺りが、直球派たる所以です。
一応、本文で具体的な例を挙げますと、なぜ後輩が「妻の後輩」なのかは分かりませんし、別に話的には妻の後輩でなくても良いのですが、これが絶妙なのです。どこ知れぬ罪悪感があり、悪い現場を目撃している気分になります。自分の後輩でも、お隣の旦那さんでも、全く関係ない他人でも成立するのですが、これが最適だったと読了後に断言できます。
断言の理由は、ありません!
もっといきましょう。今作では人物の外見描写がゼロです。でもそれでいいのです。後輩の動作から読者側で自由に想像できましたので、むしろ無くて良かったです。
なぜ想像できたのか? 理由は、ありません! 分かんない!
これが磨ける類のセンスなのかは判断がつきませんが、これからも最大限活用していって欲しい……、というか自動的に発動するのでしょうが、そこが魅力ですね。
指摘は……、強いて言えば、「妻は一回り歳下で、後輩の年齢は」という描写は、前半の方が良いと思います。中盤に出されると、イメージを作り直さなければいけなくなるので。眼鏡も同じく。
(②へ)
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