小池正浩

 僕の知るかぎりでは、にあくまですぎませんが、こんサイト今年度最注目作品二作が偶然おなじタイミングで完結しました。  春野わかさんのいわゆる異世界転生チート物のベタな設定パターンを逆手にとったというか逆転させた発想と表現力がみごとな、アンリアルでリアルなアンチ現代ファンタジー https://estar.jp/novels/25928958  題名からしてそれっぽくありながら皮肉とひねりが効いてて、現代的な風潮や小説の流行傾向を踏まえつつ故意に踏み外しまくり、けどたんなる亜流もしくはそのアンチテーゼにとどまらず、そこに積極的に生産性のある肯定的な意味と価値を見いだそうとする試みがすばらしい。ふだん雅な文章レトリックをこそもっとも得意とする春野さんが、ワルノリかというくらいおもうぞんぶん諧謔重視、音韻先行でテンポよくシンプルに、アグレッシヴに筆をすべらせるように進めることで、爆笑爆走の途轍もないバケモノ(失礼!)かつハイポップ作品が生まれましたね。  それから、以前も一度紹介した明日乃たまごさん渾身のアクチュアルな問題作 https://estar.jp/novels/25944812  これは時流に乗っかっただけの無責任な戦争シミュレーション小説なんかじゃない、真摯に現実の政治と戦争に向き合い、刻一刻と変化する複雑な世界情勢を作者がみずから調べ、どうすればよいか解決策を作者みずから考えつづけて最後まで真剣に取り組んだ、血の流れる〝生きた〟物語。  二作とも現実のいまある状況をダイレクトに、あるいは微妙にパラレルに反映しながらも、ただあきらめ追認し終わるのではなしに、なんとか現状打破できないか模索し必死にあらがう抵抗の(カウンター)作品。どう評価されるのか、自分のことのようにたのしみです。  そして、ひさしぶりに批評の名にあたいする著作『橋川文三とその浪曼』『神と革命の文芸批評』(ともに著者は杉田俊介)が最近たてつづけに刊行され、ほんとうにひさかたぶりの重量級の本格的批評に痺れました。メチャクチャ興奮してます。前者は思想の、後者はサブカルふくめさまざまなジャンル作品に対する分析や議論なのですが、これがもうとかくとても刺戟的、触発的でおもしろい。あらためて批評の可能性/革新性を再認識しました。やっぱり僕も、もっともっとフットワーク軽く、どんどんとことん挑む必要性あるな。
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いつもながら素晴らしい書評ありがとうございます 明らかにラノベ系異世界もんとかの影響ですね その手のは積極的には読まないんですけど頭を空にして楽しめるし、分かりやすい風刺が効いてる作品もあって。 そんな感じで思い付いた作品です 21歳男子の一人称だから、もうちょいラフな言い回しや、今っぽい表現多用しようかとも思ったんですが、今は直ぐに過去になっちゃうのでホドホドに、懐かしいものも入れたりしてみました 最後のイラストは始めは表紙にと考えてて、ハトが雀になってるので修正しようかなと。 ペンギンは始めはパンダ イワシはアジでしたが、人間に戻るという結果ありきでそうなりました フォロワーさん企画で他作
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 たしかに「明らかにラノベ系異世界もんとかの影響」が窺えるにせよ、春野さんの『俺俺』(勝手に略称)はアイディアの勝利、いやむしろ発想の独創性に裏打ちされた柔軟なアレンジの勝利、といったところですね。仮にほかの人が似たような作品のアイディアをおもいついたとしても、はたしてあんなふうにうまくユーモラスにまとめる構成力や表現力があるかというと、やはり春野さんだからこそのアレンジメント力が大きく発揮されているのはまちがいない。  それにしても、主人公の視点人物である二十一歳の男子大学生にしては情動の生々しさがあまりなさげな、やけにあっさりした内面描写やセリフだなとは終始なんとなく気にはなっていたんです
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