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新星ファンタジーコンテスト「最弱/落ちこぼれ」
 ヒロイックファンタジーでもない限り、ファンタジーの登場人物はたいてい弱い。たとえばトールキン『指輪物語』の主人公は、腕力もなければ魔法も使えない、食べることと昼寝が大好きなだけというホビットだ。魔法使いや戦士や凶悪な敵に囲まれ、世界の命運を賭した大戦争に巻き込まれるが、最後までチート能力を発揮するようなこともない。しかしながら、最弱である彼らに備わった精神、楽天的で生きることを楽しむという、のほほんな力が世界を救ったと言ってもいい。ビアズ・アンソニー《魔法の国ザンス》シリーズ(山田順子訳 ハヤカワ文庫FT)のビンクは、誰でも魔法が使えるはずの世界で魔法が使えないという最弱さが、逆転して最強に転ずるタイプ。ムアコックの《エルリック》シリーズ(安田均、井辻朱美訳 ハヤカワ文庫FT)はアルビノに生まれ魔法や薬品に頼ってかろうじて生きているような虚弱体質だが、魔剣を手にしたために人の魂をすすることで生き永らえるアンチヒーローだ。  さて今回は、そのオーソドックスな「弱い」を物語に活かしながら、いかに独自性や新味を持ち込めるかという部分に着目して入選作を選んだ。王道展開なだけに、リーダビリティも高く面白い作品が揃っている。ぜひ、お読みいただきたい。 (三村美衣)

大賞

現実世界での死者と生者がプレイヤーとして混在するゲーム世界という設定が面白く、両者の差がゲーム設定に巧みに活かされている。現実世界では文武両道パーフェクトな主人公が、ゲーム内では不器用で役立たずな最弱キャラ、病死した親友がゲーム内では女の子の姿をしているなど、盛りだくさんの設定が楽しい。次々に登場するキャラがが最後は主人公のもとに集合して大バトルを展開する、友情・努力・勝利なジャンプ方式が気持ち良い異世界ファンタジー。

準大賞

平民、女性、傭兵あがりの無法者。階級社会においてはイレギュラーな団員ばかりで構成された青鳥騎士団。王国の武道大会に出場したあぶれ者たちが集まる王国最弱軍団が、見下されながらも足掻き、名誉や規律を重んじる他の騎士団ではなしえない戦法を駆使して勝ち進む。落ちこぼれ軍団がのし上がる王道のスポ根パターンながら、団員たち一人一人に個性と存在感があり、読者の共感を呼ぶ。階級社会の偏見は一朝一夕では変化しないが、しかし彼ら自身は武道大会で本当の強さを手に入れ、それが戦場での一体感へとつながる。終盤の展開が見事だ。

入賞

記憶石と呼ばれる記録媒体の発見によって画家が不要になってしまった異世界で、転生者であるアーティスト志望のフリーター女性が、まったく売れない画家の青年と、仕事の依頼がない最弱剣士をプロデュースする。新しい価値観を異世界に持ち込むことで、負け犬な青年たちが輝きはじめ、フォービズムからキュビズムという芸術革命に立ち会うことになるという展開が、チャレンジングで独自性がありたいへん面白い。ヒロインの言動の手前勝手なおやじ臭さと、青年二人の純朴な初々しさのギャップも楽しい異世界転生アートコメディ。

佳作

〈外〉は恐ろしい世界だから、境界を越えてはならない。セイラムの森で暮らす魔女たちは、外界との境に結界をはり〈外〉を遠ざけてきた。ところが、魔術ひとつ扱えず、薬草を摘むだけが取柄のみそっかすのドロシーは、病弱な叔母のための薬草を探すうちに結界を超えてしまい……。ナルシスティックな文体とセイラムの森の閉塞感が見事にマッチしており、息がつまるような緊迫感がある。まだ物語の冒頭だけだが、カタストロフィへと向かう(であろう)今後の展開が楽しみだ。
平凡な家庭で育った兄妹が異世界に転生、なんと兄は最弱の勇者に、妹は最強最悪な魔王に! ブラコン、シスコンな兄妹、それぞれの視点から異世界での成長(転落)が描かれ、やがて二人の運命が交錯する。転生したら貧乏勇者でした、魔王の娘でした、というそれぞれの設定はありがちながら、立場だけではなく兄妹の性格の落差も利用しつつ、邂逅に向けて盛り上げる構成が巧みで、最後まで読者をひっぱる。
現実世界のあちこちにダンジョンが出現、人間界が魔王やモンスターの脅威にさらされるや、それに呼応するように人類の中に「覚醒者」が誕生。ダンジョンに潜り、魔物を討伐する彼らは「ハンター」と呼ばれるようになった……という設定はかっこいいのだが、主人公はまったくかっこよくない最弱なおっさん(といっても28歳ですが)であるところがミソ。なんとレベル10でカンストしてしまい、それ以上強くなれないことが確定してしまったのだ。ハンター歴10年ながら、スキルにポイントを割り振ることも、覚醒もできず、素材の石だけは貯まる一方という状況がなんとも面白い。現実世界での貧乏暮らしぶりもリアルで、実在感のある彼が、この先どう一発逆転を迎えるか。まだ始まったばかりだが、これからの展開に期待したい。
主人公は、身長192センチでガタイの良さを買われ、不良グループのボスの後ろに立ち、周囲を圧倒する役割を担っていた元ヤンキー。実は腕はからっきしで、気の優しい力持ちタイプ。そんな彼が、異世界にトラック転生するのだが、朦朧とした意識で三つのお願いを聞かれ、チートスキルじゃなく「ゲーム」「パフェ」「猫」。いかつい男が、このなんともかわいいお願いをしてしまう、という出だしのギャップが抜群。さらに外見で判断されてしまうことに苦しんでいたはずの主人公が、転生後、おっさんの集団と少女を交えたグループが争っている場面に遭遇、女の子のいる方が襲われていると思い込んで加勢するが、実はそっちが盗賊だったという展開も気が利いている。
竜の餌として地下牢に放り込まれ少年が、まさに竜の咢に咥えこまれた瞬間。血を舐めたことで竜には賢竜としての記憶が蘇り、一方の少年には竜の声が聞こえるようになったという冒頭の掴みが魅力。ラノベというよりは、児童書の範疇に入る物語で、キャラ設定は真っ当だが、空や外の世界への憧れや、初々しいボーイ・ミーツ・ガールな展開も楽しい異世界ファンタジーに仕上がっている。ここから始まる二人と一匹の冒険譚も読んでみたい、という気にさせられた。
募集概要
「新星ファンタジーコンテスト」 ファンタジー書評家「三村美衣」氏とエブリスタが再びタッグを組み、新星のようにきらめくファンタジー小説を発掘します! 受賞作には三村美衣氏からの選評と、個別にアドバイスをお送りします。 あなたのファンタジー作品をより輝かせるため、この機会をぜひお役立てください!
スケジュール
・募集期間:2023年9月4日(月) 12:00:00 ~ 2023年11月5日(日) 27:59:59 ・最終結果発表:2024年1月中旬頃予定
募集テーマ
第15回目のテーマは「最弱/落ちこぼれ」です。
・歴代最強の誉れ高き勇者が“反転”の呪いを受けたことで、“最弱の勇者”となってしまい!? ・母星を追われた宇宙最弱の種族は、遠く辿り着いた星で自分たちより弱い“人間”という生物に出会い――? ・優秀な兄と比べられ、罵られてきた少年。周囲を見返すため、悪魔と契約して……。
「最弱/落ちこぼれ」の要素を含んでいれば、どのような世界/時代設定のファンタジー小説でも応募可能です。 思わず最後まで一気読みさせられる、そんな引力を持ったファンタジー小説をお待ちしています!
賞
大賞 1作品 ・賞金5万円 ・三村美衣氏からの選評 準大賞 1作品 ・賞金3万円 ・三村美衣氏からの選評 入賞 1作品 ・賞金2万円 ・三村美衣氏からの選評 佳作 数作品 ・三村美衣氏からの選評 ※大賞、準大賞、入賞または佳作(以下、「受賞」という。)の作品はエブリスタ公式SNS等で配信、紹介等される可能性があります。
講評者プロフィール
三村美衣 ファンタジー、SF、ライトノベルの書評家として、長年の経験を持ち、数々のファンタジー・SF小説賞の審査員を歴任。 創元ファンタジイ新人賞の最終選考も務めた。 第一線で活躍する中で、次世代のファンタジー作品の誕生を待ちわびている。 著書『ライトノベル☆めった斬り』(太田書房/共著)、『SFベスト201』(新書館/共著)、『大人だって読みたい少女小説ガイド』(時事通信社/共著)など。 2018年10月~2019年12月、monokakiにてファンタジー小説の具体的な書き方を指南する「新しいファンタジーの教科書」を連載。好評を博した。
応募要項
・ファンタジー要素を含む作品であること。 ・文字数は5,000文字以上。 ・20,000文字までの内容で選考を行います。 ・連載中の作品も応募OK! ・すでに完結している作品、並びにエブリスタ内の公式コンテスト及び他サービス等の投稿コンテストで落選した作品を、募集内容に沿うように再構成してご応募いただくことも可能です。 ※非公開設定している作品は、選考対象外となります。 ※エブリスタ内の公式コンテストや他社サービス等への重複応募が確認された場合、応募取消しになる場合があります。
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コンテストの注意事項(必読)