東亰チキン

イベント《イケてる『ツカミ』批評会》、略して『イケツカ』からきました。それでは参ります。極辛です。 ●それは死神と少女の出会いであった(P1)  冒頭の1行目。すっきりしてとてもいいです。10人中7人はページをめくるでしょう。  さて、問題はこの先です。心の準備はいいですか。  冒頭のツカミ云々の前に視点のずれが非常に気になりました。これはリーダビリティ(読みやすさ)に直結してきます。ここがまずいと、読み手が文字情報を脳内でうまく映像にできません。特に一人称視点というのは三人称のそれに比べて情報量が少なく、またそれを摂取する間口も大変狭いです。視覚情報においてもその制限を当然受けます。順を追っていきます。 ●玄関の前で倒れている私を他所に『彼』は通り過ぎた(P2) 『私』が『私』を客観視しているのも気になりますが、それよりも、後の『目の前に広がる血の海』との係り具合に違和を覚えます。血の海を見ているとき、主人公はうつぶせですよね。横向きと考えられなくもないですが、ストーカーに背後から殴られて倒れているのなら、大抵うつぶせで倒れていると思うのです。そうした場合、視界は立っているとき以上に限定的なものになっているはずです。足もとなどで男性という意味での『彼』は認識できても、自分をよそに通り過ぎたかどうかは判定が難しい気がしませんか。自宅の玄関前のどの部分を彼が歩けばそのように感じるのかちょっとイメージが湧きませんでした。 ●そんな私を見下すように『彼』は言った(P2)  位置関係を描写しているのであれば(一人称としてみた場合)視点にブレを感じます。態度を描写しているのであれば『位置関係』ではないことを明確に書きこんだほうがいいと思います。 ●安心したのか私はそのまま目を閉じ意識を失った(P2) 『私』自身のことです。憶測を交える必要はないと思います (〝安心したのか〟に言及) ●元気のない声だけど今の精一杯の力で声を出した(P3)  元気がない声かどうかは他者が判断することのように思います。『喉にあまり力が入らなかったけど』など主観サイドに振った表現のほうがしっくりくるように思います。(続きます)
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●まだおぼつかない足取りで部屋を出る(P4)  これも他者の視点が混じりこんでいるように感じます。『足下が怪しい』など、本来ならコントロールできる場所がなんらかの作用・原因によって、いつものように動かせなくなっている様子で書かれていたほうが読み手には伝わると思います。『おぼつかない』もしくは『足取り』どちらかひとつならセーフの気もしますが、ふたつが繋がるとどうにも三人称的に読めてしまいます。 ●私は地獄耳で耳も良いから(P8)  意味が重複しています。 ●悪戯っぽく笑う(P8)  これもどうでしょう。自分が悪戯っぽく笑えたかどうか鏡なしにはわかりませんよね。(続きます)  次に表記・表現
●その時、後ろを振り向こうとすると男性が無理やり後ろから抱きついてくる(P2) 『振り向こうとする』のは、振り向くことは決めたがまだ振り向けていない状態です。これは後ろから抱きつかれたことからも、まだアクションが起きていないことがわかります。それなのに『私』はその人物が男性であることがわかってしまいます。もちろんそれは可能です。抱きついてきた腕を見ればわかりますから。でもなぜ男性とわかったのかが書かれていたほうがリアリティと説得力が増します。さらにこの後『見ず知らずの人』と出てきます。声だけで判断したとはいえ、後ろ向きで気が動転しているわけですから、もっと憶測が飛び交ってもいい気がします。  
●でもこのまま死ぬのはヤダ・・・・私にはまだ未練がある・・・・(P3) 『未練』といってるわりには、その未練がどこに発生しているのかわかりませんでした。そのための弁明がまず家族への愚痴めいたことからはじまってますし、あまつさえ『家族に縛られないで生きたかった・・・・なんて烏滸がましいよね』ときてます。読み手はまずここに謎が隠されているのではないかと疑います。が、次には翻って『家族のおかげ』です。『家族を守る』でも『家族に恨みを晴らす』でもありません。ここまでで未練のトリガーになっている動機や思いが見当たりません。『もう一度生きたい』と思う意志はどこを拠り所としているのでしょう。 ●ほう? 俺
●そういや自己紹介が遅れたな。俺は憑神幽人。職業は探偵でこの探偵社の社長でもある。あと死神もやってるんだ(P4)  情報の提示方法がスマートじゃありません。小説の稚拙な書き出しの代表例に「自分で自己紹介」というほとんどタブーといっていいものがあります。この作品の場合は一発目でそれをしているわけではなく、またひとり語りをしているわけでもないので、タブーとまではいきませんが、あまりにも『キャラクターブック』的な情報提示です。それにいきなり妻を娶る大胆な男の言葉としては少々律儀にすぎます。『憑神幽人だ。探偵兼社長。もちろん探偵社(ここ)のな。ついでに死神もやってる』ぐらいで伝わります。 ●手元にあ
まとめに入りますね。『ノリ重視』はわかります。それはツカむための武器にもなります。が、リアリティに欠けています。読み手はツカまれたくて助走しています。作品世界へ入りこむための取っかかりを探しています。それをしているときの最初のモノサシは自分の認知している現実です。ここから徐々に物語の世界へ、イマジネーションと共に入りこんでいきます。なので最初ぐらいはそれをしやすいカタチを作って提示してあげるのが書き手の努めだと思います。とはいえ、小説はフィクション──捏造話です。現実と同じである必要はありません。ですが架空の世界にも現実世界同様の整合性が必要です。SFやファンタジーのような現実とかけ離れた世界

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