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新星ファンタジーコンテスト「料理/グルメ」
 巨大ロボットだけではなく、食べ物も文字になり難いのかもしれない。異世界や宮廷を舞台にしたり、幽霊譚を絡めたり、工夫を凝らしているとはいえ、どうも食そのものが弱く、描き様にメリハリがないものが多かった。  そんな中で大賞に選んだ『ラヴィ=フォーティスと竜の頭と愉快な食レポの旅 1』は、王道の異世界食レポ小説ながら、グロテスクと言ってもいいような禁忌なき食欲を無邪気な語りで描いた独特の作風を、『魔法使いとパンの耳』と『甘いお菓子を召し上がれ ~甘党王子の優しいお茶会~』の二作は「食」とは何かという問題に向き合う姿勢を評価した。  テーブルに所狭しと並べられた色とりどりの皿、次々に運びこまれる意匠を尽くした料理の美しさ、調理場の火力や鍋をあおる様子などなど、映像では瞬時に伝わるのに、文字はなかなかまだるっこしい。食材解説や作り方の手順説明を面白く読ませる、食レポとは違う味覚の表現はどういうものか。匂い、色、食感、形、温度、器やその場の雰囲気。食は五感に訴えるだけではなく記憶ともつながり、感情を揺する。  ファンタジー界を代表する飯テロ作家といえば上橋菜穂子だ。グルメテーマではもちろんないが、『守り人』シリーズにも『獣の奏者』にも、記憶に残る食が登場する。ぜひお読みいただきたい。 (三村美衣)

大賞

国を統べる魔女様の斡旋でワールド・トラベル出版に就職した兎人族の少年が、異世界各地をまわり、名物料理や特産品を食べ歩く異世界食レポもの。魔女を奉じる異世界の設定や各地の風土や食材も細やかに設定されており、ファンタジーファンにはたまらない小ネタも満載だ。相棒の頭部だけで生きている龍とのやりとりも楽しい。天性の悪食ぶりには、けっこうブラックな笑いも潜んでおり、グロとかわいらしさとの共存は、『撲殺天使ドクロちゃん』を彷彿とさせる。傑作、続きも読みたい!

準大賞

ただの料理人にしか見えない酔いどれ魔法使いと、その弟子の師弟愛もの。弟子には大きな秘密があり、そのために魔法薬が欲しくて弟子入りしたのだが、師匠が教えてくれるのは、豚の煮込みや二日酔いに効くレモンドリンクばかり。秘密と焦りに押しつぶされそうになりながらも、周囲の人々に気を使ってしまう弟子と、ちゃらんぽらんに見えて弟子思いの師匠。ふたりの優しさが、煮込み料理の暖かさと共に読者の心にじんわりと届く。文字が脱走してしまった魔法書などガジェットの描写も楽しい。

入賞

両親を亡くした幼い伯爵令嬢の孤独を癒やしたのは、白い髭をちょっと縛った、魔法使いのような老人が造り出すお菓子の数々だった。老人は自分の持つ菓子作りの技術を惜しむことなく少女に教え、彼女が15歳の夏に息を引き取った。彼女は悲しみを乗り越えるために、パンを焼き続けた……。貴族らしからぬという理由から婚約を破棄された伯爵令嬢が、伝説の料理人の弟子として王宮に招かれる。展開も巧みだが、何より、食べること、生きることへの前向きな肯定感が気持ちよい。甘いものを食べた時の記憶や、お菓子の持つ多幸感を読む者が分かち合える素敵な作品。

佳作

元の世界で医療系の研究者だったという転生者が、魔法使いやドワーフの鍛冶屋などを招集。魔法で作動する高圧蒸気滅菌器「オートクレーブ」を作るためのプロジェクトを立ち上げる。電気で動いていた機械を魔法でどう代用するかというディスカッションが楽しい。そして最後に、研究者がオートクレーブを開発しようとする真意、研究室あるあるな本当の理由が明かされ、今回のテーマにおちる。ユーモラスなショートショート。
伊予親王の家庭教師の阿刀大足の甥で、大学寮の異端児である真魚が、食あたりから一向に回復しない伊予親王の病の謎を解明する。平安時代の宮廷を舞台に、若き空海が食に纏わる謎を解くライトミステリ。空海が都の大学寮を出奔した後、仏門に入って唐にわたる以前の、足跡がよくわかっていない空白の時代に着目したところがミソ。史実を巧みに織り込みながら、空海が帝と伊予親王のために用意したフルコースのディナーを描きだす。着眼のオリジナリティとキャラの魅力で読ませる。
部屋がいつの間にか片付いていたり、突然の雨に慌てて庭に出ようとしたら既に洗濯物が取り込まれていたり、うたた寝をした肩の上に羽織がかけられていたり。10年前に亡くなった妻の気配を感じていた私はある日、目星をつけていた絵の前で、お餅に特製味噌を塗って焼き、匂いで妻を釣り出すことに成功するのだが……。ユーモラスな筆致で、亡き妻との一時の邂逅を描いた心温まる短篇。ノスタルジックな生活感が梨木香歩『家守綺譚』を思わせる。大食漢の奥さんの幽霊がかわいい。
お城で毎晩饗される贅沢なディナーに飽き飽きした姫様は、魔女の魔法で町娘に化けると、侍女たちが噂していた感謝祭のお祭りへと繰り出し、夢にまで見た屋台料理の数々を口にするのだが……。お姫様が、屋台の買い食いが美味しいのは味ではなく、そこに特別なスパイスがかかっているからだということを知る、屋台で食べたフォカッチャとダンスに彩られたきらきらのプリンセス・ストーリー。きれいな影絵調の挿絵を添えた、大人女子のための絵本。
種族も世界も関係なく、強く料理を希求する者の元に転生して料理を作る「万物料理人」という設定が面白い。主人公は転生前、重い病気で流動食以外を口にすることできなかったために、料理らしい料理を一度も食べたことはない。それゆえに食に対する憧れが強く、病院で料理の本を読み漁っていた。膨大な知識と、まっさらな味覚と、人生経験の乏しさが揃って初めて、柔軟に異種族に対応できる。主人公の生い立ちもそうだが、料理人を召喚する者たちのエピソードも実に切実で、それ故に食への熱意に納得がいく。食材や調理についての蘊蓄も読みどころ。
募集概要
「新星ファンタジーコンテスト」 ファンタジー書評家「三村美衣」氏とエブリスタが再びタッグを組み、新星のようにきらめくファンタジー小説を発掘します! 受賞作には三村美衣氏からの選評と、個別にアドバイスをお送りします。 あなたのファンタジー作品をより輝かせるため、この機会をぜひお役立てください!
スケジュール
・募集期間:2022年5月2日(月) 12:00:00 ~ 2022年7月3日(日) 27:59:59 ・最終結果発表:2022年9月中旬頃予定
募集テーマ
第7回目のテーマは「料理/グルメ」です。
・強大な魔力を持つ大魔女が弟子を取ると宣言。条件は、彼女の舌を唸らせる料理を作ることで? ・異世界転生した料理人。自分の腕で無双しようと思ったら、そこは元の世界以上に“美食”が発展した世界だった! ・魔王が倒され平和になった世界。気ままに旅する元勇者が訪れた料理店は、倒したはずの魔王の店!? ・「食べたことのない味」を提供するという小料理屋。実は異界の食材を使っていることを偶然知ってしまい……。
料理/グルメの要素を含んでいれば、どのような世界/時代設定のファンタジー小説でも応募可能です。 思わず最後まで一気読みさせられる、そんな引力を持ったファンタジー小説をお待ちしています!
賞
大賞 1作品 ・賞金5万円 ・三村美衣氏からの選評 準大賞 1作品 ・賞金3万円 ・三村美衣氏からの選評 入賞 1作品 ・賞金2万円 ・三村美衣氏からの選評 佳作 数作品 ・三村美衣氏からの選評 ※大賞、準大賞、入賞または佳作(以下、「受賞」という。)の作品はエブリスタ公式SNS等で配信、紹介等される可能性があります。
講評者プロフィール
三村美衣 ファンタジー、SF、ライトノベルの書評家として、長年の経験を持ち、数々のファンタジー・SF小説賞の審査員を歴任。 創元ファンタジイ新人賞の最終選考も務めた。 第一線で活躍する中で、次世代のファンタジー作品の誕生を待ちわびている。 著書『ライトノベル☆めった斬り』(太田書房/共著)、『SFベスト201』(新書館/共著)、『大人だって読みたい少女小説ガイド』(時事通信社/共著)など。 2018年10月~2019年12月、monokakiにてファンタジー小説の具体的な書き方を指南する「新しいファンタジーの教科書」を連載。好評を博した。
応募要項
・ファンタジー要素を含む作品であること。 ・文字数は5,000文字以上。 ・20,000文字までの内容で選考を行います。 ・連載中の作品も応募OK! ・すでに完結している作品、並びにエブリスタ内の公式コンテスト及び他サービス等の投稿コンテストで落選した作品を、募集内容に沿うように再構成してご応募いただくことも可能です。 ※非公開設定している作品は、選考対象外となります。 ※エブリスタ内の公式コンテストや他社サービス等に応募中の作品は判明した時点で応募が無効となります。
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コンテストの注意事項(必読)