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新星ファンタジーコンテスト「お宝/ダンジョン」
 今回のお題は、もはや書き尽された感すらある「お宝/ダンジョン」。先行する作品の数々、たとえばベニー松山『隣合わせの灰と青春』、古川日出男『アラビアの夜の種族』のようなもはや古典名作から、WEB小説まで、ラノベ誕生から考えても30年以上書き継がれているジャンルだ。アプローチは多い。  なぜダンジョンに潜るのか、そもそもダンジョンとは何か、そこには何があるのか。今回、工夫を凝らした冒頭が多かったのは、書き手側の何か新しいものをという意欲と、難しさを物語っている気がした。というわけで、独自性や新味を重視した今回のセレクションだ。  大賞の『天空の城』は「宝」を拡大解釈した短編。見た目はファンタジー、設定はSF、読み心地ホラーというミックス具合が新鮮。極めて後味の悪い作品なので覚悟してお読みいただきたい。  惜しくも選に漏れたものでは、『孤独を嘆く魔王は隣にいる勇者が仲間かそれ以上に想っていることに気づかない』(茜部るた)や、『タプロームの守護者』(和來花果)あたりも読み応えがあり、まだ冒頭だけだが『勇者と呼ばれぬ彼らの今際』(おんぷりん)の今後にも期待したい。 (三村美衣)

大賞

大昔から、空にぽっかりと巨大な城が浮かぶ世界。城にたどり着く方法はなく、誰が作ったのかも、なんのためなのかもわからない。魔法使いたちは皆、そこにお宝「究極の魔法」があると信じ、城にたどりつく方法を探している。しかし、村でただひとりだけ、魔法が使えないシェフィの目に、城は、不気味なものに見えた……。魔法が使えない少女が知識によって問題を解決するという、逆ハリポタ的な異世界ファンタジーかと思いきや、中盤から不穏な要素が次々に現れ、最後には実に後味の悪い恐怖へと着地する。「そこに城があるから、目指したいよね」という当たり前の夢を無惨にも打ち砕く、「お宝/ダンジョン」というテーマを逆手にとった問題作。

準大賞

「新しい世界つくったから、デバッグお願いね」死亡転生した元デバッガーが、神様の依頼を受けて、転生先世界の不具合である「粗」を利用しダンジョン速解きするRTAゲーム実況小説。死ぬか7日経てばリセットされる「反復転生:蝉」という能力を駆使し、最速クリアだけを目指す様子が描かれる。ゲームあるあるネタも楽しく、一見全裸なプレイヤーがお尻を壁にこすこすしてすり抜ける技の使い方も効果的。臨場感ある筆致で、ダンジョンの楽しさを再確認させてくれる、ゲーム好きの心を射抜くコメディ。

入賞

ダンジョンの奥にひとり取り残され、あてどなく彷徨う幼い女の子と、彼女を無事にダンジョンから脱出させてやろうと影で奔走する姿の見えないダンジョンの住人。お膳立てをことごとく無視する女の子の奔放な行動力もかわいいが、謎の住人の行動で見えてくるこのダンジョンの様々な施設がなんとも魅力的。無限に布が湧いてくる部屋だとか、温泉だとか、いつか行ってみたいダンジョンのガイドブックを見る楽しさ。女の子が成長し、いつかこのダンジョンに冒険者として帰ってきて、謎の住人を相棒に迎える姿が見えるようなラストも素敵だ。

佳作

難関大学の入試を突破した秀才だが、貧乏で学業の傍らバイトを掛け持ちする女子大生のアズミ。バイト先の居酒屋にやってきた場違いな神官に、軽口で「なんかええ仕事ないかなー」と言ったがために、なんと未盗掘ダンジョンに潜ることに……。グルメネタのダンジョンものだが、主人公の饒舌な関西弁とノリの良い明るさには、読者をぐいぐいと引っ張る、パワフルな魅力がある。あけすけな口調でしゃべるこの主人公が一番常識人というパーティの編成も楽しい。
異能使いのマッパーの青年が、若き考古学者の女性とそのボディガードらと共にダンジョンに入るのだが、しょっぱなからトラップに嵌り、パーティが四散してしまう。トラップに嵌った際の衝撃で、記憶も混乱しているし、明かりもなく周囲を見ることもできない、そんな見通しの悪い危機的状況から語りおこし、主人公の異能によってダンジョンの様相が見えてくるのに呼応するように、パーティに加わっている人々の来歴が明らかになっていく。この描き方が上手く、自然に話に引き込まれる。異能を口に出して唱えるようになるのがカッコ悪いと思ったら、そこもしっかり伏線になっている。パーティのメンバー構成も気が利いている。
ダンジョンでの宝探しものなのだが、鑑定師であるヒロインにとっては金銀財宝が詰まっていようと、いまいと、中身などどうでもよく、ガワである宝箱の方が重要だという設定の独自性が魅力。ミミックだとわかっていても戦闘してたおす必要が出るという説明の逆転な発想も楽しい。導入的短編であり、設定の一端が明かされただけという印象だが、最後に明かされる彼女が宝箱を求める理由からの、今後の物語の広がりに期待したい。
遠足に向かう小学生のグループが地下鉄の迷宮化に巻き込まれる脱出サバイバルもの。仲良しグループではなく、クラスのはみだしものを集めて、やり手の女子をひとり混ぜた班であるところがミソ。地下鉄に乗るに至ったエピソードも、班の組まれ方も、いい加減さにリアリティがあり、またこの4人がなかなかに根性の座った子たちで面白い。プロローグの神話を、この現代的な小学生たちのエピソードに繋げた手腕も見事だ。
1999年8月の正午。東京駅の構内に突如ダンジョンが出現し、多くの犠牲者が発生。以降世界の各地で、駅や歴史的建造物など構造物の内部に次々にダンジョンが誕生し大きな被害を生んだというプロローグの描写に迫力があり引き込まれる。物語はそれから四半世紀以上が経った後、ダンジョンが新たな日常となった世界が舞台だ。ダンジョンからの恩恵を求めて人々は競うようにダンジョンに潜るようになっているが、主人公には生得の「アンチ・ダンジョン」というスキルがあり、ダンジョンに入ることができない。この足枷設定が秀逸。それ故に彼が抱える鬱屈、怒りと諦め、新たな状況への期待といった感情は共感しやすく、今後の展開に期待させる。
募集概要
「新星ファンタジーコンテスト」 ファンタジー書評家「三村美衣」氏とエブリスタが再びタッグを組み、新星のようにきらめくファンタジー小説を発掘します! 受賞作には三村美衣氏からの選評と、個別にアドバイスをお送りします。 あなたのファンタジー作品をより輝かせるため、この機会をぜひお役立てください!
スケジュール
・募集期間:2024年1月5日(金) 12:00:00 ~ 2024年3月10日(日) 27:59:59 ・最終結果発表:2024年5月下旬頃予定
募集テーマ
第17回目のテーマは「お宝/ダンジョン」です。
・大量の宝箱があるが、99%がミミックというダンジョン。しかし1%には、とんでもないお宝が入っているらしく……!? ・私を一番の宝物だと言って溺愛する父。けど実は、私の体には本当に“国の宝”と言える力が宿っていると知り……。 ・帰還者が誰一人いないという呪われたダンジョン。発生から10年、初の帰還者が語ったダンジョンの秘密とは?
「お宝/ダンジョン」の要素を含んでいれば、どのような世界/時代設定のファンタジー小説でも応募可能です。 思わず最後まで一気読みさせられる、そんな引力を持ったファンタジー小説をお待ちしています!
賞
大賞 1作品 ・賞金5万円 ・三村美衣氏からの選評 ・日本文芸社「クリエイターのためのシリーズ」書籍3冊 準大賞 1作品 ・賞金3万円 ・三村美衣氏からの選評 ・日本文芸社「クリエイターのためのシリーズ」書籍2冊 入賞 1作品 ・賞金2万円 ・三村美衣氏からの選評 ・日本文芸社「クリエイターのためのシリーズ」書籍2冊 佳作 数作品 ・三村美衣氏からの選評
※日本文芸社「クリエイターのためのシリーズ」につきまして、受賞時にご所望のタイトルをお伺いします。 ※大賞、準大賞、入賞または佳作(以下、「受賞」という。)の作品はエブリスタ公式SNS等で配信、紹介等される可能性があります。
講評者プロフィール
三村美衣 ファンタジー、SF、ライトノベルの書評家として、長年の経験を持ち、数々のファンタジー・SF小説賞の審査員を歴任。 創元ファンタジイ新人賞の最終選考も務めた。 第一線で活躍する中で、次世代のファンタジー作品の誕生を待ちわびている。 著書『ライトノベル☆めった斬り』(太田書房/共著)、『SFベスト201』(新書館/共著)、『大人だって読みたい少女小説ガイド』(時事通信社/共著)など。 2018年10月~2019年12月、monokakiにてファンタジー小説の具体的な書き方を指南する「新しいファンタジーの教科書」を連載。好評を博した。
応募要項
・ファンタジー要素を含む作品であること。 ・文字数は5,000文字以上。 ・20,000文字までの内容で選考を行います。 ・連載中の作品も応募OK! ・すでに完結している作品、並びにエブリスタ内の公式コンテスト及び他サービス等の投稿コンテストで落選した作品を、募集内容に沿うように再構成してご応募いただくことも可能です。 ※非公開設定している作品は、選考対象外となります。 ※エブリスタ内の公式コンテストや他社サービス等への重複応募が確認された場合、応募取消しになる場合があります。
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コンテストの注意事項(必読)