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新星ファンタジーコンテスト「主従関係」
 現実世界で私たちが人間関係に求めているのは、一方が一方に尽くすだけの主従関係ではない。しかし物語の社会には、絶対的な主と盲目的な従もあれば、憎しみ合いながらも離れることができない主従だって成立しうる。  ファンタジーにおける主従というと、真っ先に『指輪物語』のフロドとサムが思い浮かぶ。サムには特筆する能力は何もない。あるのはただ忠誠心のみで、フロドの背負う物の大きさを知り、常にそばで支えようと尽くす。投稿作にヒストリカルな作品が多かったのも、不自由な中で育まれる人と人の関係を描きたい人が多いからだろう。  大賞に選んだ『魔女と剣士の世界盗り旅行』は、残酷な内容をさらりと語る従者のキャラが強烈で度肝を抜かれる。短編としても読めるが、長編のプロローグと捉える方が自然な内容だ。今後の展開にも注目したい。 (三村美衣)

大賞

森の奥深くにひとりで暮らす魔女が、ある日、傷だらけで瀕死の男を見つける。魔女は彼の大切なもの「自由」と引き換えに命を救い、自分の下僕とする。男が狩り、魔女が料理する。孤独な二人の魂が寄り添い、心癒される日常の合間に、魔女に促されるまま男が自分の生い立ちを語るのだが、これがとんでもなく酷く、かつ神話の英雄や魔界との取り換え子を疑うレベルの強さ。極悪非道などという言葉もそぐわない、感情や良心回路の欠如を思わせるのだが、なぜか読んでいて憎めない。不思議な魅力のキャラクターだ。超人的な盗賊と、人を生き返らせるほどの魔女。時代にそぐわない二人の行く末は悲劇的結末しかないのだが、でも、彼らならという一抹の希望を抱かせるファンタジー版『明日に向かって撃て』。

準大賞

いつかは国を動かす宰相にという野心はあるが、人間関係の機微に疎いため、同僚に疎まれた官吏のヨイ。彼に与えられた仕事は、継承権のない末姫の教育係だった。宰相の夢を諦めきれないヨイは、姫の評価をあげることに専念するのだが……。能力はあるが内気な姫が、自分のために懸命に働く教育係のために、国王との食事会で驚くべき挙動にでる。打算的な野心家のくせに気持ちがそのまま顔に出てしまうという官吏の無防備さ、幼いながらに彼の野心を理解し、報いようとする姫の健気さが胸を打つ。

入賞

まだ幼いが聡明な姫君と、御伽噺の知識が豊富というまったく筋違いな能力を気に入られて近衛兵にとりたてられた「御伽噺の騎士」の主従が、こっそりと城を抜け出し、死者を蘇らせるネクロマンサーを訪ねる。死とは何かという論理パズルのようなディスカッションの語り/騙りのテクニックに引き込まれる。そのディスカッションの先に成立する、呪文も魔法陣も生贄も必要としない、死者を蘇らせる方法がなんともかっこいい。内容的には大長編のエピソード0という印象だが、彼ら三人がその後どんな道を辿るのか。本編が読みたい。

佳作

貴族の子女が通う学校で、王子の婚約者である公爵令嬢の腰巾着を続けていたトイニ。しかし王子のお気に入りへの苛めには加担したくなく、距離をとったところ、その苛めの首謀者に仕立て上げられそうに。このままでは王子不興を買い、平民に落とされてしまうと思ったトイニは、街にでて平民の恋人を探し始める。小市民的で短絡的なお嬢様のドタバタコメディ。イケメンが実は従者でストーカーという、ありがちな展開の上に、もう一段重ねる笑いに落差があって楽しい。
奴隷として売られていた異国の男を買った老婆は、実はこの国の女王だった。玉座の簒奪者であり、暴君、寡、売国奴、醜行、玉座の上の娼婦と、国民からも悪しざまにののしられる女王。彼女は、自分を殺して王となり、その後に周囲の人々を殺し、最後には彼自身も殺されるという筋書を実行する者として奴隷を買い取ったというのだが……。冒頭で明かされる女王への評価、さらに彼女自身が描いた「筋書き」が尋常ではない。奴隷の饒舌な一人称体を採用、語り口は軽やかだが、彼の過去も苛酷極まりない。まだ序盤すぎて評価に困るが、とにかく先が知りたい、エモーショナルで容赦のない展開が予想される架空歴史もの。
灰色の髪で産まれたために捨てられた忌み子と、まだ幼いその子を拾って育てたならず者集団の女頭領の関係を描いた短編。美しいが残酷な女は、子供を小間使いのように使うだけではなく、街の情勢や読み書きなどあらゆることを教え、しくじれば容赦ない罰を与えた。子どもは、いつか女に復讐することだけを考え鍛錬を重ねるのだが……。淡々と抑えた筆致ながら、抑圧された子供の怒りがヒリヒリと伝わってくる。結末は意外ではないが、ドラマチックな展開で読ませる。ただ、ほぼファンタジーではないのが残念。
魔女の使い魔がロボットという組み合わせも新鮮だが、そのロボットが契約の報酬として自分を破壊して欲しいと願う。その「なぜ?」という疑問が読者を惹きつける。型番遅れで既にサポートも終了し、情報が届くと動きが止まってしまう。ロボットの淡々とした語りで、ロボットの物体としての側面を丁寧に描き、孤独な魔女とロボットの使い魔という主従の間に芽生えるささやかな感情、不器用なふたりの戸惑いを浮き彫りにする。じんわりくる掌編。
国王とごく普通の村人の間に産まれ、ずっと村で田畑を耕して育った、平凡な容姿の王女さまと、その護衛である武芸に秀でた天使のような美少女騎士。がさつな王女さま視点からの完璧姫騎士描写は、羨ましさや憧れといったいろんな感情が素直に表現されていて微笑ましい。しかし読み進めていくと、お姫さまの方も、ただ平凡なだけではない、本当の意味での強さを持った女性であることがわかり、それが、主従の絆の深さにつながる構成も心地よい。
募集概要
「新星ファンタジーコンテスト」 ファンタジー書評家「三村美衣」氏とエブリスタが再びタッグを組み、新星のようにきらめくファンタジー小説を発掘します! 受賞作には三村美衣氏からの選評と、個別にアドバイスをお送りします。 あなたのファンタジー作品をより輝かせるため、この機会をぜひお役立てください!
スケジュール
・募集期間:2022年3月7日(月) 12:00:00 ~ 2022年5月8日(日) 27:59:59 ・最終結果発表:2022年7月中旬頃予定
募集テーマ
第6回目のテーマは「主従関係」です。
・魔王に攫われた姫を救けにきた騎士。だが姫は魔王の忠実な部下になっていて……? ・歴女が戦国時代に転生!けど推し武将を殺した男の家臣に生まれ変わってしまい……!? ・神社の跡取りの俺は、神様と話せたばかりに、彼の暇つぶしに付き合わされる羽目に……。
主従関係の要素を含んでいれば、どのような世界/時代設定のファンタジー小説でも応募可能です。 思わず最後まで一気読みさせられる、そんな引力を持ったファンタジー小説をお待ちしています!
賞
大賞 1作品 ・賞金5万円 ・三村美衣氏からの選評 準大賞 1作品 ・賞金3万円 ・三村美衣氏からの選評 入賞 1作品 ・賞金2万円 ・三村美衣氏からの選評 佳作 数作品 ・三村美衣氏からの選評 ※大賞、準大賞、入賞または佳作(以下、「受賞」という。)の作品はエブリスタ公式SNS等で配信、紹介等される可能性があります。
講評者プロフィール
三村美衣 ファンタジー、SF、ライトノベルの書評家として、長年の経験を持ち、数々のファンタジー・SF小説賞の審査員を歴任。 創元ファンタジイ新人賞の最終選考も務めた。 第一線で活躍する中で、次世代のファンタジー作品の誕生を待ちわびている。 著書『ライトノベル☆めった斬り』(太田書房/共著)、『SFベスト201』(新書館/共著)、『大人だって読みたい少女小説ガイド』(時事通信社/共著)など。 2018年10月~2019年12月、monokakiにてファンタジー小説の具体的な書き方を指南する「新しいファンタジーの教科書」を連載。好評を博した。
応募要項
・ファンタジー要素を含む作品であること。 ・文字数は5,000文字以上。 ・20,000文字までの内容で選考を行います。 ・連載中の作品も応募OK! ・すでに完結している作品、並びにエブリスタ内の公式コンテスト及び他サービス等の投稿コンテストで落選した作品を、募集内容に沿うように再構成してご応募いただくことも可能です。 ※非公開設定している作品は、選考対象外となります。 ※エブリスタ内の公式コンテストや他サービス等に応募中の作品は判明した時点で応募が無効となります。
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コンテストの注意事項(必読)