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新星ファンタジーコンテスト「スローライフ」
 アメリカの開拓時代を描いたローラン・インガルス・ワイルダー『大草原の小さな家』や、子どもたちが船を自在に扱うアーサー・ランサム『ツバメ号とアマゾン号』などを読むと、そんな経験をしたことなどないが、生活風景になぜか懐かしさを感じる。どちらもリアルな生活を描いた作品だが、ゆったりと流れる時と丁寧な暮らしに抱く郷愁や憧れは、神や精霊や自然の驚異、人間の奥底に眠る力を求めるような、ファンタジーを読む動機と通底する。  というわけで今回は、そのテーマ性に対する生真面目なアプローチを評価し、『池に落ちたら異世界のスローライフが待っていて、仕事大好き婚約者あり生活スキルゼロの私なりに充分楽しみましたが帰る方法がわからなくて困っています。』を大賞に選んだ。また惜しくも選に漏れたが、転生、魔王、溺愛と人気テーマを同居させた風和ふわ『皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!』や、まだ始まったばかりだが海善紙葉『その男、アルグ』もたいへん面白かったので、併せてぜひお読みいただきたい。 (三村美衣)

大賞

仕事も順調、恋人からはプロポーズを受けたばかりと、公私共に順風満帆な美園と、仕事のミスで落ち込む後輩社員の青山君。躓いて公園の池に落ちた二人は、気がついたら妖精界にいた……。転生ではなく、クラシックな異世界参入もの。仕事はできるが生活面はぼろぼろの美園と、真逆の青山君。妖精界でのスローライフを通して成長する二人の姿が活き活きと描かれる。二人は現実の世界に戻れるのか、戻りたいのか。自分が本当に還りたい場所はここか、あちらか。ファンタジーの読者が抱くそんなジレンマに、スローライフが答えをくれる。

準大賞

賢者の塔で学び国家錬金術師になったのに、武器の開発に嫌気がさしてドロップアウト。生まれ育った田舎の村に帰り、錬金術工房を開いた青年が主人公。試行錯誤を繰り返し、栄養ドリンクやトイレなど村人の生活や冒険者たちに役立つものを作る。錬金術工房育成を小説に落とし込んだような明快な展開は面白く、錬金術で空を飛ぶという夢に向かって歩を進めていく、生真面目でちょっと夢想家な主人公と、彼を育んだ田舎ならではの素朴な人々の温かな交流がなんとも心地よい。しかし、生活に根ざしたモノ造りとはいえ、この主人公、スローライフと呼ぶにはちょっと働きすぎです。

入賞

実際は使用人も置けないほど貧乏な没落貴族なのに、見栄っ張りな母親のせいで、悪役令嬢然とした振る舞いが要求されるサビーナ嬢。同じように母から使用人の役を与えられた妹を虐め、そんな家から逃れるように湖に出かけては釣り糸を垂らす。貴族令嬢らしいドレス姿ながら、釣り人としての矜持と知識を持ち、そして釣っているのは夕食のおかずという、このなんとも奇妙でちぐはぐな状況が、読者をぐいぐい引き込む。悪役令嬢が日常の謎を解くミステリ連作。合理的かつ論理的なタイプなのに、不条理な母のロープレに付き合わされるサビーネ嬢のちょっと屈折した語り口が、釣りが絡むと熱を帯びるところも面白い。先が楽しみなシリーズだ。

佳作

戦争が終わったとき、戦った女たちを人々は忌避するようになる。ましてやそれが、恐ろしい力を持つ魔女であったなら……。『戦争は女の顔をしていない』や『同士少女よ、敵を撃て』などで注目を集めたテーマを、ファンタジーに落とし込み、戦争によって様々なものを奪われた女性同士の連帯を描いた作品。外見は少女のままという呪いが、一般社会の中に紛れ込むことすら許されない魔女の苦しみを浮き彫りにする。ファンタジーだからこそできるアプローチだ。
生まれつき体温が氷のように低く、手に触れたものは凍らせてしまう特異体質の少年が主人公。彼の体質や、彼をとりまく世界の温かさは、まるでおとぎ話のようだが、少年を敢えて「冷たい男」と呼び続ける距離感と、彼がその体質を生かして葬儀社でエンバーミングを受け持っているという意外性のある設定が、此岸と彼岸が混じり合う、優しくて静謐で独特な世界を作っている。妖かし絡みの日常の謎を扱った連作になるかと思いきや、後半は物語が加速、ダークなファンタジーとなり読み応えもある。回収されていない伏線もあり、さらなる続編を期待させる。
魔界につながる大穴があるデュデッカの城塞を守る腕利きの女剣士フリーダ。職場のあまりのブラックぶりについに兵士をやめる覚悟を決めた彼女は、元カレから辺境の丸太小屋を購入し、念願のスローライフを始めるのだが、実はそこは魔族が跋扈する危険なエリアだった……。なにをスローライフとするかは本人の受け止め方次第。職場のせいで、殺伐な方向に突き抜けてしまい、強さと感情のネジがとんでしまったフリーダならではの、素手で熊を屠るようなほのぼのとした暮らしっぷりが楽しいユーモラスな異世界ファンタジー。
転生時に植物の種子を必ず発芽させ育てることができるというスキルをもらったにも関わらず、なんと転生先の世界は文明が一度滅んだはるか未来で、地上には植物が残っていない。普通なら思い出すはずのない前世の記憶と、死後のやりとりを思い出してしまったがために、スローライフへの夢を諦めきれない主人公は、ダンジョンに潜る発掘調査隊に入り、植物の種子を探すのだが……。この冒頭の展開が抜群に面白い。与えられたチート能力も使えなければ意味がないが、しかし努力すれば、いつか必ず報われる。真っ直ぐで前向きな主人公が元気をくれる読後感の良い冒険ファンタジー。
男子高校生の一世(かずや)が、滅亡の危機に瀕した異世界に救世主として召喚された! のはいいんだが、時空に歪みが生じて転移に15年を要し、なんとその間に世界は滅んでしまっていた。白骨死体がごろごろ転がるダークな世界で、果物を木からもいだことすらないごく普通の高校生と、たったひとりの生き残りであるエルフの少女(200歳)と始める、狩猟採集生活。いい感じに力の抜けたユーモラスな語り口で騙されそうになるが、冷静に考えるとまったくほのぼの出来ないスローライフという、テーマへのアプローチの面白さが抜群。
募集概要
「新星ファンタジーコンテスト」 ファンタジー書評家「三村美衣」氏とエブリスタが再びタッグを組み、新星のようにきらめくファンタジー小説を発掘します! 受賞作には三村美衣氏からの選評と、個別にアドバイスをお送りします。 あなたのファンタジー作品をより輝かせるため、この機会をぜひお役立てください!
スケジュール
・募集期間:2022年11月7日(月) 12:00:00 ~ 2023年1月9日(月) 27:59:59 ・最終結果発表:2023年3月下旬頃予定
募集テーマ
第10回目のテーマは「スローライフ」です。
・魔族に滅ぼされた亡国の姫。彼女は仇である魔族の領地で、悠々自適に暮らしていて――? ・世界の管理に疲れた神様、仕事を減らしてスローライフ宣言。そのせいで世界は滅茶苦茶になって!? ・気まぐれに営業して不思議な道具を売る雑貨屋。店主である私の祖母は、実は異世界から来た大賢者なんだって!
「スローライフ」の要素を含んでいれば、どのような世界/時代設定のファンタジー小説でも応募可能です。 思わず最後まで一気読みさせられる、そんな引力を持ったファンタジー小説をお待ちしています!
賞
大賞 1作品 ・賞金5万円 ・三村美衣氏からの選評 準大賞 1作品 ・賞金3万円 ・三村美衣氏からの選評 入賞 1作品 ・賞金2万円 ・三村美衣氏からの選評 佳作 数作品 ・三村美衣氏からの選評 ※大賞、準大賞、入賞または佳作(以下、「受賞」という。)の作品はエブリスタ公式SNS等で配信、紹介等される可能性があります。
講評者プロフィール
三村美衣 ファンタジー、SF、ライトノベルの書評家として、長年の経験を持ち、数々のファンタジー・SF小説賞の審査員を歴任。 創元ファンタジイ新人賞の最終選考も務めた。 第一線で活躍する中で、次世代のファンタジー作品の誕生を待ちわびている。 著書『ライトノベル☆めった斬り』(太田書房/共著)、『SFベスト201』(新書館/共著)、『大人だって読みたい少女小説ガイド』(時事通信社/共著)など。 2018年10月~2019年12月、monokakiにてファンタジー小説の具体的な書き方を指南する「新しいファンタジーの教科書」を連載。好評を博した。
応募要項
・ファンタジー要素を含む作品であること。 ・文字数は5,000文字以上。 ・20,000文字までの内容で選考を行います。 ・連載中の作品も応募OK! ・すでに完結している作品、並びにエブリスタ内の公式コンテスト及び他サービス等の投稿コンテストで落選した作品を、募集内容に沿うように再構成してご応募いただくことも可能です。 ※非公開設定している作品は、選考対象外となります。 ※エブリスタ内の公式コンテストや他社サービス等に応募中の作品は判明した時点で応募が無効となります。
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コンテストの注意事項(必読)