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「子猫の時間」

序章

煙草のスモーク。

饐えた臭いと、アルコールの呼気。

脳みそを壊す芳醇なパフューム。

肉を炙る香ばしい煙に、アジアンなスパイスが入り混じる。

奥へと進めば進むほど、俺たちの街の”におい”は強くなる。


金と、甘い欲と、狂気を求めて集まった人間たちが放つ

刺激的で過激な”におい”で満たされた街。



だが今は、

全ての”におい”が消え、

決して止むことのなかった喧騒さえも失われ、

硝煙の火薬の臭いと、血なまぐさい腐臭がする。


瞼を刺激する、焼け焦げた異臭に、

奥歯が痛むほどに耳をつんざく砲音が、闇に溶け混んでいる。

「最悪、だ」舌打ちする俺のすぐそばで

赤い薔薇の花弁が所狭しにばらまかれ、

真っ黒な洞穴からは、火の粉が吹き続けている。



「死神」に、出逢ってしまったら最期。


死へと続く道が開かれる。

「ーーー死神か?」目の前の男に尋ねる。


黒いトンネルが、俺の眼前にあり、今まさに、火を放とうとしている。



こんなはずじゃなかった。

ここで終わるわけにはいかなかった。


虫けらのように、踏みつけられるために、

この街で、這い蹲ってきたんじゃない。




くそっ、


くそっ、


まだ俺は死ねない。






あの日、あの女に出逢わなければ、

この街の”におい”を知らなければ

俺の命は、あとどれだけ、続いたのだろうか。



なあ教えてくれ、


―――――― 俺の”復讐”は、終わったのか。






3

3万円のプライド

ー序章ー:「猫屋みずき」



幸せの絶頂だった。


そう、昨日までは


崇が、りりかと一緒だと知った後、気づいた。



あなたの夢を叶えられるオンナは私じゃないんだって。


私、プライドの塊だったんだって。


そんなプライド、もう要らない。



あなたの為に、お金に替えるわ。




だって



そんなものがあったせいで、


…あなたを失ったんだもの。


5

Freeze UP Solid (カチン・コチン)


序章:猫屋 みずき


品川駅  改札


ジンジンとした痛みと灼熱感が疼く指先に、息を吹き掛けた。

指先が凍るほど冷たくなっている。


私のカラダが作り出した熱気の塊が、

視界を曇らせ上空へと立ち昇り

そして、消えていった。


もう、4月だというのに、

JR品川駅の東口改札口前を行きかう人々は、

厚手のコートを羽織り、吐く息も白く

冬の雑踏の中、足早に目的地へと向かって行く。




家を出る時には、もっと早く家路に辿り着くつもりだった。

夜の8時過ぎに、

品川駅にいることになるなんて、

考えてなかった。





数時間前までは、


泣き腫れた目をどうにか誤魔化そうと、


職場で四苦八苦してた私。


目の腫れは引いただろうか・・・・


なんだか気になってしまった。





目元を確認するついでに、唇に再度グロスを塗り直そうと、

改札近くの化粧室に駆け込もうとした。







7





化粧台の前も同様に、人が犇めき合って

大混雑状態の女子トイレは、

戦場に向かう前のソルジャーが最後の装備チェックを

している真っ最中といったところで、

皆、自分のことしか見えていない様子だ。



群衆と長蛇の列に圧倒され駅の改札から出た。



今、 PM8時45分。


約束の時間まで、あと15分。




....足が重くなる。




今から、プライドをお金に変える。

そう決心して、

いかにも怪しい[出会い系サイト]ってやつに

投稿したのは、ほんの数時間前のこと。




「お小遣いくれるパパ募集」

たった数文字を、記入するだけだというのに、


怖気づいた私の心を映し出すかのように、画面をタップする指先が震え、



[募集] という文字を何度も打ち直すハメになった。


自分が記入した題名をみて、思わず吹き出す。



「パパはないよね、流石に」


と、一人突っ込む。

でもほかに、言葉が思い浮かばなかった。



エッチしてお金を貰うのって、

なんて言ったっけ?もっと単純でわかりやすくて

ツッコミどころのない言い回し・・・・。

8

「援助交際....援交だ」


独り、混み始めた山手線の車両の中ということも

忘れて、思わず口に出してしまった。






慌てて、何事もなかったように取り繕う。

...てゆうか、




誰も私のコトなんか気にしているはずない。

だって、

道路のど真ん中で蹲って泣いていても


誰ひとり声も掛けてくれなかった。





いや、

たった一人だけいた。


長々と、クラクションを鳴らし、

どぎついイエローのスポーツカーに乗った男が、

信号が赤に変わるなり車から降りてきて一喝した。


9

早朝 新宿