新PCレイアウトにする

小説コミック投稿コミュニティ エブリスタ

  • ただ今の総作品数
    2,425,752作品

第十二章 凍れる雨夜の星 #2

「この身体は私の甘さが招いた罰。それには何の怨みも無いよ。そんなものには何の怨みも無い」

少し俯いたカナンは瞼を閉じた。

「憎しみは別。あんな身体になった私の為に、ガルンは何度も何度も死線を越える事になった。何度も何度も。そのせいでガルンの存在の歪みはどんどん酷くなる。それを強いたのは貴方だよね?」

「それは奴が勝手に選択した事だ」

「勝手……?」

カナンは薄く笑った。

綺麗な笑顔なのに、背筋が凍りつくような殺気が纏わり付く。 

ラインフォートは生唾を飲み込んだ。

カナンの冷ややかな瞳が開く。

「私はそんなに馬鹿じゃないよ? それに、あの塔では“耳は潰されていなかった”。あの時の会話は聴いていたんだよ?」

「……わざと治療を遅れる様に仕向けていた事も知っていそうだな?」

「知っているよ。親切な赤毛の騎士が教えてくれたから。だからこそ私は貴方を許せないよ。許せないかな?」

ラインフォートは歯軋りした。少なくとも内通者がいるのは確定だ。

そいつのせいで今の局面があると言える。

「一回だけチャンスを上げる」

唐突なカナンの言葉にラインフォートは目を細めた。

「私に攻撃していいよ? それで私が倒れたら、貴方は生きる運命だったと諦める。でも、倒せなかったら……諦めて死んで欲しいかな?」

ラインフォートは躊躇した。

この少女の行動は微妙に抜けている。

相手に情報を開示し、あまつさえ攻撃チャンスを与えると言うのだ。

正気の沙汰とは思えない。

だが、この馬鹿正直な少女なら十分有り得る事だ。

(まあいい。倒せなかったら逃げればいいだけだ)

ラインフォートは鼻で小さく笑った。

「良いだろう。その話にのってやろう」

そう言うと素早く服から
赤い短刀を取り出した。

エノク文字が刻まれた、不可思議なオーラを放つ小振りのフランベルジュだ。

それを見てカナンの表情が強張った。

誰が見ても異質なのは手に取るように分かる。

ラインフォートは邪悪に笑う。

「これは、天翼騎士団が持つ天獄剣のレプリカだ。中に高位存在を封獄して使役する力を持つ。これには天使はいないが……ある魔性が封獄してある」

フランベルジュから淡い白い光りが漏れる。

曲剣の上で素早く印を結ぶと、剣に刻まれた文字が光り出した。

「この中には、月喰いの魔女ハティ・ヴァ――……?」

そこでラインフォートは言葉を止めた。

フランベルジュが無い。

いや剣どころか、構えた両手が消えていた。

「……?」

不思議そうに無くなった両手を眺める。

2

空気を裂く妙な音が響く。蝶白夢から伸びる水刃が戻る音だ。

「あっ……?」

ラインフォートはゆっくりと足元に転がる、自らの両手を見た。

フランベルジュもその手の中にある。

唐突に傷口から血が噴き出した。それと共に痛みがじわりと広がる。

絶叫がオレンジ色の幻想
空間に響き渡った。

「権力者の悪い癖かな?
癖なのかな? 自分が優位と判断すると、より多くの利益を欲しようとする。だから隙が生まれる」

カナンは冷淡な表情で淡々と語る。

「ぎっ、ぎざまああ!! 謀ったな!」

ラインフォートは顔面蒼白で雄叫びを上げた。

足元に血の池が広がっていく。この出血量では数分と命は持たないだろう。

「貴方の余裕は、何か切り札があるから……さっきの挙動から、それはそ
の指にはめてあった指輪だよね? 凄い魔力量がある」

「……!! 貴様、魔術師だったのか?」

ラインフォートの言葉にカナンは首を傾げた。

「私はただの剣士だよ?ただチャクラのお陰で魔力をエーテルラインで感知出来る。ガルンも魔導都市とやらで見えるようになったって言ってたかな? 」

「……!!」

ラインフォートは半年近く前に、ガルンに魔喰教典と呼ばれる魔動書を奪取する任務を与えた事を思い出した。

3