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新星ファンタジーコンテスト「運命/宿命」
 物語において、主人公の前にはさまざまな障害が現れ、その行く手を阻むものだが、ファンタジーにおける「運命」と「宿命」は、神や神秘が存在する世界なだけにやっかいだ。簡単に超えられないから「運命/宿命」なんだが、超えないと話にならない。この壁の高さが、ファンタジーの面白さでもある。  前世紀の異世界ファンタジーブームでは、育ての親を殺された少年が自分の宿命に気づき、旅に出るという成長ものが王道の展開だった。自分に課せられた宿命を知り、反発し、受け入れ、超えようと足掻く。今回の選考にあたり、かつては大長編で描いていたその葛藤を、短編という形でもさらっと提出できる今の書き手の成熟に感心させられた。  今回大賞に選んだ「峠の幽霊」は、運命を捉える檻として描いた幻想怪異譚。イマジネーション豊かな筆の力を楽しんでいただきたい。 (三村美衣)

大賞

親からも学校からも疎外され、食事すらろくに与えられない子供が、お化け屋敷と呼ばれる廃屋で出会った美しい少女と若い母親。しかし実はその少女は……、という怪談風のオチだけでは終わらない、さらにもう一段用意されたどんでん返しに驚かされるダークファンタジー。ふたりが遊ぶあやとりの、横から下へ、下から上へ、表から裏へ、ひっくり返すことで変化するその形の描写が、読者を幻想的なイマジネーションへと実に巧みに誘導する。序盤のノスタルジックな香りや密やかで心地よい怪しさと、それとは対象的な、終盤の嫌な緊張感。この落差が強烈な印象を産み出す。

準大賞

婚約者の王子に裏切られ、濡れ衣を着せられた上に、家族も殺され、全てを失ったジャンシアヌ。放浪の末に不老不死の魔女となり、90年という月日が流れたある日、自分を裏切った王子が、転生して物乞いとなっていることを知る……。元王子には複雑な呪いがかけられている上に、複数から命を狙われており、ジャンシアヌと王子の関係性も二転三転する。複雑な展開ながら上手く制御できており、リーダビリティも高い。まだ途中だが、どう着地させるのかがたいへん気になる作品だ。

入賞

14歳の女の子カルディナが廃材を集めて作った機械仕掛けの竜が、謎の物体と合体して動き始める冒頭はロボットアニメさながら。竜以外にも、高度な人工義肢が出てきたり、機械と生体、SFとファンタジーが融合した世界観が面白い。カルディナは竜もろとも軍に招聘され、王位継承問題や、他国の政変に巻き込まれながら成長していく。竜もヒロインも健気でかわいく、盛りだくさんの展開で読者を飽きさせない。

佳作

百年に一度開催される〈降臨祭〉の夜。人と交わることは禁忌とされる大神官と、彼に思いを寄せる近衛隊長の、運命に翻弄される切ない愛を描いた作品と思いきや、実はこの美しく薄幸そうな大神官こそが、運命の中心であり、繰り返しを産み出す張本人であることが明かされる。その存在を邪しき者と見るか、運命に抗う反逆者と見るか。断罪はせず、読者に判断を委ねるような書き方が上手い。
拾い集めたガラクタの中にあった一組の占いカードを手にしたことで、娘の運命は動きはじめる。彼女の占いは当たるとの評判を呼び、ついには王宮に召し抱えられる身となる。しかし、人の運命を占っていたはずが、いつしかカードによって操られはじめ……。運命という存在がいかに人を狂わせてしまうものなのかを真正面から描いた意欲作。運命に翻弄された絶望の果に、自分自身の人生へと一歩踏み出す結末の力強さが心地よい。
暴虐のかぎりを尽くした呪妃が、虫や獣に転生し、餓死したり、罠にかかったり、捕食されたりという絶望を繰り返して千年。朧気な前世の記憶を持ちながらの因果応報的な輪廻転生を繰り返す。艱難辛苦の末についに現代で人間の姿を得たという設定が効いており、悪であったはずの主人公に感情移入せずにはいられない。千年前何があって彼女は悪となったのか、人となった彼女に運命は再び何をさせようとしているのか。千年前の王朝で彼女を追い詰めた四人が集結する、逆ハー展開にも期待しつつ、今後が楽しみな作品。
十年前に姿を消した弟子との再会に、意趣返しと強がりの気持ちから、左の薬指に指輪をはめて出かけてしまう師匠。死なない運命を背負った女(師匠)と、その運命を変えようとする男(弟子)の、不死なくせにダメダメでモダモダしちゃう関係性が愛しい短編。女性から男性側に視点が変わっての種明かしもインパクトがあり面白い。しゃれた雰囲気で、軽く読めて読後感もよい、大人のためのおとぎ話だ。
魔王とは、争いを好む人が相互に戦って滅ばぬように、神が人に与えた共通の敵であるという発想が面白い。その役割に倦んで剣を捨てた勇者に魔王は、一緒に旅に出ようと持ちかけるのだが……。勇者と魔王を追い詰める残酷な宿命、ふたりの絶望の深さと儚い友情があまりに切なく、ガシガシと胸に刺さる。魔王と勇者の関係を描いた作品は、今回も多数あったのだが、その中でも最も強く印象に残った作品だ。
募集概要
「新星ファンタジーコンテスト」 ファンタジー書評家「三村美衣」氏とエブリスタが再びタッグを組み、新星のようにきらめくファンタジー小説を発掘します! 受賞作には三村美衣氏からの選評と、個別にアドバイスをお送りします。 あなたのファンタジー作品をより輝かせるため、この機会をぜひお役立てください!
スケジュール
・募集期間:2023年1月5日(木) 12:00:00 ~ 2023年3月5日(日) 27:59:59 ・最終結果発表:2023年5月中旬頃予定
募集テーマ
第11回目のテーマは「運命/宿命」です。
・“運命の人”が映る鏡に見知らぬ美女が映り、歓喜した男。その女性を探し始めるが……? ・魔王を倒すよう宿命づけられた勇者の子孫たち。その役目を終わらせるため、ある計画を立て――。 ・兄が行方不明になった。だが両親は冷静な顔で「兄は異世界に行った、お前もあと数年後にはそうなる運命だ」と言い出して!?
「運命/宿命」の要素を含んでいれば、どのような世界/時代設定のファンタジー小説でも応募可能です。 思わず最後まで一気読みさせられる、そんな引力を持ったファンタジー小説をお待ちしています!
賞
大賞 1作品 ・賞金5万円 ・三村美衣氏からの選評 準大賞 1作品 ・賞金3万円 ・三村美衣氏からの選評 入賞 1作品 ・賞金2万円 ・三村美衣氏からの選評 佳作 数作品 ・三村美衣氏からの選評 ※大賞、準大賞、入賞または佳作(以下、「受賞」という。)の作品はエブリスタ公式SNS等で配信、紹介等される可能性があります。
講評者プロフィール
三村美衣 ファンタジー、SF、ライトノベルの書評家として、長年の経験を持ち、数々のファンタジー・SF小説賞の審査員を歴任。 創元ファンタジイ新人賞の最終選考も務めた。 第一線で活躍する中で、次世代のファンタジー作品の誕生を待ちわびている。 著書『ライトノベル☆めった斬り』(太田書房/共著)、『SFベスト201』(新書館/共著)、『大人だって読みたい少女小説ガイド』(時事通信社/共著)など。 2018年10月~2019年12月、monokakiにてファンタジー小説の具体的な書き方を指南する「新しいファンタジーの教科書」を連載。好評を博した。
応募要項
・ファンタジー要素を含む作品であること。 ・文字数は5,000文字以上。 ・20,000文字までの内容で選考を行います。 ・連載中の作品も応募OK! ・すでに完結している作品、並びにエブリスタ内の公式コンテスト及び他サービス等の投稿コンテストで落選した作品を、募集内容に沿うように再構成してご応募いただくことも可能です。 ※非公開設定している作品は、選考対象外となります。 ※エブリスタ内の公式コンテストや他社サービス等に応募中の作品は判明した時点で応募が無効となります。
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コンテストの注意事項(必読)