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新星ファンタジーコンテスト「職人」
 日本は文化的に職人を尊ぶ習慣があるせいか、刀鍛冶や陶工や船大工や宮大工や庭師といった人々に対して、徒弟制度や修行といった敷居の高さもあり、特殊な知識や力を受け継ぐ少し秘密結社めいた職能集団というイメージがある。棟梁や親方や師匠なんて仙人か魔法使いみたいなもので、まあつまり、ファンタジーととても相性がいい存在なのだ。  しかし、それを書くとなると簡単ではない。たとえば魔法を封じる壺を焼く工房だとしたら、材料(普通なら粘土だが)はどこから、誰が、どうやってとってくるのか。ろくろをひくのか、別の成形をするのか。乾かすのにどのくらいの時間が必要で、どのくらいの温度で焼くのか。その温度はどうやって作り出すのか。たとえばのぼり窯を使うのであれば、自ずと工房が作られる立地が決まる。職人に必要とされる技術、感覚はどんなもので、どんな修行が必要なのか。そしてその、常人とはちょっと違う研ぎ澄まされた感覚を、どう文章で表現するのかが重要となる。これが出来ると出来ないでは、物語のリアリティがまったく異なる。  さらにそこにファンタジーならではの何かを足したい。材料には風土が、模様には信仰や信念や魔法が絡み、物語にファンタジーならではの奥行きが生まれる。乾石智子『オーリエラントの魔道士』シリーズは、写本や機織りといった職人の技術がそのまま魔法に直結し、そういった魔道士が生活の中に溶け込んでいる。マンガだが中野シズカ『てだれもんら』の特殊庭師のような設定であれば、現代の日本を舞台にしたエブリデイマジック系も可能だ。 (三村美衣)

大賞

政略結婚当たり前な貴族社会で、婚約破棄が相次ぎ、それが経済悪化にまで及んだがために、貴族の婚前恋愛禁止令という条例が成立。自由恋愛ができなくなった令嬢たちは、理想の恋人となる自律稼働人形を求めるようになったという設定がうまい。人形は歯車と魔法で動いており、人形師は魔女の職業だ。主人公は若いながらも腕の良い人形師。制限の多い貴族の令嬢たちとは違い、一見自由に見える彼女だが、しかし美しい人形を作る背景には、魔女への差別や、その象徴である赤毛に対するコンプレックスがある。魔女や少女たちが置かれている状況はなかなかに厳しいのだが、彼女たちが抱える苦しみや喜びなど様々な感情を、コミカルで甘々なラブストーリーで包み、コンパクトに描ききった。

準大賞

ビーグルの『心地よく秘密めいたところ』など、墓地とファンタジーの相性は悪くない。人はある意味で強靭だが、でも簡単に死んでしまう。そして肉体の次に、忘れられることで二度目の死を迎える。様々な種族が暮らす異世界において、この人という種族の死や、埋葬や墓という習慣はどういう意味を持つのだろう。そんなことを考えさせられる作品です。といっても暗い話じゃなく、墓掃除が趣味な少年が、墓場で「弔い職人」という謎な職種の男に出会い、夜の住人である彼を助けて、弔われる人の物語を調べはじめるハートフルなヒューマンドラマ。異世界版「おくりびと」といった印象だが、この先のファンタジーならではの展開にも期待したい。

入賞

最初は働く父親の見様見真似だったが、やがてめきめきと腕を上げ、父親の技量をも凌ぐ細工師となった息子。貴族の工房に招かれ、驕り高ぶる息子を、父は謙虚であれと諭す。「お前は本物のエトワールを見たことがない」という父の言葉の意味も理解せず、ずっと彼を馬鹿にしていた息子。しかし工房でノームの細工師の技を目にしたとき、彼は父の苦悩と強さを知る……。超えられない力の壁に直面したクリエイターの苦悩、人としての弱さが実に切々と描かれている。オルグの衝動は誰の心にも潜む危うさであり、それでだけに読むものにひりひりとした痛みが伝わる。

佳作

ネクロマンサーがこの世に未練を残す死者の声を聞き、事件を解決する連作ミステリ。屍人使いは『指輪物語』などでも悪のイメージだが、シャーマンのような存在と位置づける独自の解釈を加え、その上で当のネクロマンサー本人が風評被害に迷惑してるとぼやく軽妙さが楽しい。アーデルハイトやランスといった主人公をとりまくキャラクターも魅力がある。アーデルハイトの正体など意外性のある展開で読ませる。
「育て親の遺志を継ぎ、史上最強の弓矢を完成させる」という野望を抱いて、秘密結社のような職人集団を抜けた若者が、亡き父が残したヒントを拾いながら旅を続ける探求型ロードノベル。究極の弓を完成させるという主人公の強い意志と、旅路のそこかしこに見え隠れする育ての親の過去が、読者を先へ先へと促す推進力となっている。まだ物語の出だししかないのでどう転がるのかわからないが、幸衆という職人集団の存在も怪しげで気になる。先の展開に期待。
建前としては身分制もなく、男女平等となった世界。しかし実際には、十代の娘だというだけで腕前を試してももらえず、鍛冶志望のアイレンを見習いとして受け入れてくれる工房も、騎士志望のレイスのために剣を作ってくれる職人もいない。アイレンが鍛えた剣を見たレイスは、彼女を自分の刀鍛冶に指名する。2人の少女の友情と挑戦を描いた、爽快な青春小説。オーソドックスな展開ながら、刀鍛冶や武器の蘊蓄も面白く、読者を飽きさせない。
冒頭の「ネイルはね、男の為にしているんじゃないから」という啖呵に痺れ、ネイリストの女性がちょっと風変わりなイケメン男性と知り合うラブストーリーと思って読んでいたら、その後の展開に意表をつかれた。その男性が、実は自分は異世界からきた魔法使いで、ついては故郷の異世界でネイルサロンを開いてくれないかとくる。なんとネイリングには魔力を増す効果があるというので、ネイルサロンは大繁盛。設定の奇抜さやラブストーリー的な面の面白さはもちろんだが、ネイリストが自分の職業に誇りを持っており、それが何よりも大切だと確信しているところが読んでいて気持ち良い。
繊維の都オーヴェレームの首都。祖母から受け継いだ刺繍店を営むレオニーのもとに、ある日、刺繍の魔術を依頼したいという立派な身なりの近衛兵が現れ……。ドレスメーカーの下請けや、街の人々の衣服のリメイクなど、ささやかな仕事で生計を立てていた刺繍職人の少女の日常に、刺繍の魔術という謎の言葉が投げ込まれ、祖母の過去、王宮の政権争いなど大きな物語へと広がる。冒頭の刺繍職人の日常描写がとても地味で、地に足がついているからこそ、ここからの展開に期待が高まる。
募集概要
「新星ファンタジーコンテスト」 ファンタジー書評家「三村美衣」氏とエブリスタが再びタッグを組み、新星のようにきらめくファンタジー小説を発掘します! 受賞作には三村美衣氏からの選評と、個別にアドバイスをお送りします。 あなたのファンタジー作品をより輝かせるため、この機会をぜひお役立てください!
スケジュール
・募集期間:2023年5月2日(火) 12:00:00 ~ 2023年7月2日(日) 27:59:59 ・最終結果発表:2023年9月中旬頃予定
募集テーマ
第13回目のテーマは「職人」です。
・手違いで寂れた鍛冶工房に弟子入りしてしまった!けど怠け者のだらしない師匠は、実は伝説の鍛冶師で!? ・下町の小さな飴細工店。そこの飴細工を食べると、不思議な体験が出来るという噂があって――。 ・工事現場の事故で亡くなった大工が異世界転生。一国の城を作る一大事業の指揮をとることに!?
「職人」が登場すれば、どのような世界/時代設定のファンタジー小説でも応募可能です。 思わず最後まで一気読みさせられる、そんな引力を持ったファンタジー小説をお待ちしています!
賞
大賞 1作品 ・賞金5万円 ・三村美衣氏からの選評 準大賞 1作品 ・賞金3万円 ・三村美衣氏からの選評 入賞 1作品 ・賞金2万円 ・三村美衣氏からの選評 佳作 数作品 ・三村美衣氏からの選評 ※大賞、準大賞、入賞または佳作(以下、「受賞」という。)の作品はエブリスタ公式SNS等で配信、紹介等される可能性があります。
講評者プロフィール
三村美衣 ファンタジー、SF、ライトノベルの書評家として、長年の経験を持ち、数々のファンタジー・SF小説賞の審査員を歴任。 創元ファンタジイ新人賞の最終選考も務めた。 第一線で活躍する中で、次世代のファンタジー作品の誕生を待ちわびている。 著書『ライトノベル☆めった斬り』(太田書房/共著)、『SFベスト201』(新書館/共著)、『大人だって読みたい少女小説ガイド』(時事通信社/共著)など。 2018年10月~2019年12月、monokakiにてファンタジー小説の具体的な書き方を指南する「新しいファンタジーの教科書」を連載。好評を博した。
応募要項
・ファンタジー要素を含む作品であること。 ・文字数は5,000文字以上。 ・20,000文字までの内容で選考を行います。 ・連載中の作品も応募OK! ・すでに完結している作品、並びにエブリスタ内の公式コンテスト及び他サービス等の投稿コンテストで落選した作品を、募集内容に沿うように再構成してご応募いただくことも可能です。 ※非公開設定している作品は、選考対象外となります。 ※エブリスタ内の公式コンテストや他社サービス等への重複応募が確認された場合、応募取消しになる場合があります。
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