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新星ファンタジーコンテスト「伝説/神話/おとぎ話」
 神話は、人の生死を含めた自然現象に物語的な道筋を与え、たとえば夜がくることを、冬がくることを、死が訪れることをどう受け止めればいいのかを教えてくれるツールだ。文字として書き残されるようになると、書き手、語り手、為政者など、制作に携わる人々の様々な思惑の影響を受け、意図的に書き換えられていく。神話は人の心を動かすために利用されてきたのだ。  ファンタジーを志す人にとってこの問題は、避けて通ることのできないテーマであり、結果として神話的ファンタジーにメタ構造を持つ小説が多くなる。一気呵成に読んで、ああ面白かったと本を閉じて終わり、とはいかないのでちょっとめんどくさいけど、ファンタジー好きにとってその手の小説は瘡蓋を剥がす行為にも似た、愉悦をもたらしてくれる。今回のエントリーにもそういったメタフィクションが何本かあり、楽しませていただいた。興味がある方は、フィリップ・リーブ『アーサー王ここに眠る』(井辻朱美訳 創元推理文庫)あたりからどうぞ。 (三村美衣)

大賞

白髪がまぶしい仙人のような年寄りが都の書店に持ち込んだのは、初代皇帝の寵姫が実は男神であったとか、男同士が闘ったり、血みどろの愛憎劇を繰り広げる、今ならBLとしか呼びようのない物語だった――。という掴みに惹かれて読み始めたところ、これが、実に波乱に富み、残酷でなおかつ滑稽な物語で、男女も種族も超えて繰り広げられる愛憎劇はどろどろというよりもむしろあっけらかんと艶っぽく、スケールが大きいんだか小さいんだかよくわからないところまで、まさに神話の面白さ。BLという部分は些か期待外れで、むしろ姉神様の大胆で残酷なカッコ良さに痺れる。果たして物語の結末は書店主が言うところの「血みどろの闇深き死に別れ」なのか、「末永く幸せに暮らしました」なのか。さてそもそも書店にこの物語を持ち込んだ仙人は誰なのかというオチまで、ぜひご堪能いただきたい。

準大賞

神様から付喪神から霊魂まで、あらゆる御霊が視える主人公・天音満瑠。その異能をかわれ、文化庁の宗務課「特別異形管理室」に配属になったが、特別異形管理室は京都が本局であり、目下の東京出張所唯一の職員だ。霊や妖怪ではなく、神様が視え、憑いている神様の性格からその人物の背景を読み解き、日常の事件を解決する、言うなれば御霊プロファイラー小説。牧歌的な物語が、満瑠が大量の御霊を背負った神の依り代の女性と出会ったことから、日本神話の原初の神に関わる大事件へとスケールアップしていく、未完だがこの先の展開も楽しみな作品。設定の面白さもさることながら、古事記の蘊蓄も楽しい。

入賞

カルト村で生まれ育ち、「口にした言葉が現実になる」という邪神の呪いを受けた少女ももこ。「一つ目の異人」の手引で村を逃れて西浪市へと向かった彼女は、「怪異」に襲われかけたところを、異人の弟子だという青年・金泉柚麒に助けられる。口には出さないが心の中で小説のような文章を組みたてるももこと、神話・伝承の蘊蓄を交えてのべつまもなく喋り続ける柚麒。饒舌なふたりの語りは独特だが、疾走感があり、慣れると癖になる。またネーミングセンスも意味深かつ秀逸で、上遠野浩平や成田良悟にも似た面白さがある。

佳作

藤原時平によって大宰府へ左遷され、都を思いながら病で没し、死後は怨霊になった菅原道真。その死から、天神信仰への流れが実は道真その人によって仕組まれたものであり、その背後には「梅」と呼ばれる道真のために働く隠密集団があった、というフリーメーソン日本発祥説にも通じるような歴史の謀略劇を、二人の男が酒飲み話として語る。政治のために仕組まれた天満大自在天神という神話の生成過程と、「梅」一族の活躍が面白く一気読み。歴史好き、陰謀好きに特におすすめ。
黒髪の忌み子として産まれ、十八歳になったら白蛇様への生贄にされる少女が主人公。異類婚姻譚の定形パターンだが、このヒロインがとにかく強気でいい。村の子供たちに虐められれば殴り返すし、指を立てて呪いの言葉を吐く。それでも両親のことが大好きで、ふたりに害が及ばないよう、生贄になることは諾として受け入れるところがなんとも切ない。とはいえ、神の使いの白蛇を掴んで脅すパワフルな彼女の、ラストに見せるツンデレっぷりがかわいい。
些細なことから母と喧嘩になった夜、杏里の部屋の窓に不思議な子どもが現れた。ピーターパンだと名乗るその子は、杏里をネバーランドへの旅へと誘った。一晩のお試しという約束でピーターパンの手をとった杏里は、異界で物語の役を演じつづける奇妙な人々と出会う……。ピーターパンは女の子だし、ティンカーベルは巨漢の殺し屋で、本来の設定からかけ離れているし、『不思議の国のアリス』を下敷きにしたネバーランドはグロテスクで居心地が悪い。物語を支配する不穏な空気が読者の不安を煽り、ページをどんどん繰らせる。
聖剣を持ち帰った勇者が寺子屋を開き、いつか次の勇者が現れるときのために聖剣を守っている。時が流れ、寺子屋は学園となり、ある時、当代の勇者と魔王がお互いの正体を知らないままクラスメートになり、そして……。魔王と勇者の対決を、学園ものの一コマにおとし込んだ。魔王にも、勇者にもなりたかったわけではない二人の、ちょっと温度の低い友情物語は、独特の雰囲気があり、語り口もとても面白い。
生贄として捧げられた少女と、歳神との異類婚姻譚もの。歳神の外見がただの牛であったため、農村育ちの少女は怯えず、さりとて獣と見下すこともなく、素直に尽くす様子が描かれる。身代わりで生贄にされ、自分が偽物であることに後ろめたさを感じている少女に、歳神が繰り返す「私の暦姫」という言葉が読者の胸にも心地よく響く。牛と少女という、考え用によってはグロテスクな情愛を、透明な優しさで包み込んだ手腕が見事。
募集概要
「新星ファンタジーコンテスト」 ファンタジー書評家「三村美衣」氏とエブリスタが再びタッグを組み、新星のようにきらめくファンタジー小説を発掘します! 受賞作には三村美衣氏からの選評と、個別にアドバイスをお送りします。 あなたのファンタジー作品をより輝かせるため、この機会をぜひお役立てください!
スケジュール
・募集期間:2023年7月3日(月) 12:00:00 ~ 2023年9月3日(日) 27:59:59 ・最終結果発表:2023年11月中旬頃予定
募集テーマ
第14回目のテーマは「伝説/神話/おとぎ話」です。
・孤児として虐げられる少年を迎えに来た騎士。彼は少年を、伝説の勇者の子孫だと言うが……? ・神々が集い討論を交わす。その内容は、これから創る世界に流す“神話”の選定会議!? ・町に古くから伝わるおとぎ話。私にはなぜか、その主人公であるお姫様の記憶がある。
「伝説/神話/おとぎ話」の要素を含んでいれば、どのような世界/時代設定のファンタジー小説でも応募可能です。 思わず最後まで一気読みさせられる、そんな引力を持ったファンタジー小説をお待ちしています!
賞
大賞 1作品 ・賞金5万円 ・三村美衣氏からの選評 準大賞 1作品 ・賞金3万円 ・三村美衣氏からの選評 入賞 1作品 ・賞金2万円 ・三村美衣氏からの選評 佳作 数作品 ・三村美衣氏からの選評 ※大賞、準大賞、入賞または佳作(以下、「受賞」という。)の作品はエブリスタ公式SNS等で配信、紹介等される可能性があります。
講評者プロフィール
三村美衣 ファンタジー、SF、ライトノベルの書評家として、長年の経験を持ち、数々のファンタジー・SF小説賞の審査員を歴任。 創元ファンタジイ新人賞の最終選考も務めた。 第一線で活躍する中で、次世代のファンタジー作品の誕生を待ちわびている。 著書『ライトノベル☆めった斬り』(太田書房/共著)、『SFベスト201』(新書館/共著)、『大人だって読みたい少女小説ガイド』(時事通信社/共著)など。 2018年10月~2019年12月、monokakiにてファンタジー小説の具体的な書き方を指南する「新しいファンタジーの教科書」を連載。好評を博した。
応募要項
・ファンタジー要素を含む作品であること。 ・文字数は5,000文字以上。 ・20,000文字までの内容で選考を行います。 ・連載中の作品も応募OK! ・すでに完結している作品、並びにエブリスタ内の公式コンテスト及び他サービス等の投稿コンテストで落選した作品を、募集内容に沿うように再構成してご応募いただくことも可能です。 ※非公開設定している作品は、選考対象外となります。 ※エブリスタ内の公式コンテストや他社サービス等への重複応募が確認された場合、応募取消しになる場合があります。
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コンテストの注意事項(必読)