たとえば巻き込まれ方の主人公が右往左往しながら問題を解決していく作品などがそうだが、昨今の物語では、力もあり、人格も優れた正義の味方的正統派ヒーローの方が不在で、むしろ平凡で情けない反（アンチ）ヒーローの方が主流になっている。ところが往々にして、ダメだったはずの凡人ががんばりはじめ、開眼し、ヒーロー然としてくる。そこにカタルシスがあるので、そちらの方が物語としては王道なんだが、そこをもう少し堪えることで個性を出せるのではないか、というのが今回のお題だ。一方でダーク・ヒーローというのは「悪」や「闇」の要素を持つ。法の外で働く闇の仕置人や、力を闇から引き出すヒーローが悪を滅ぼすタイプの物語もこの範疇に入るし、映画『ジョーカー』のような、ヴィランを主人公にした物語も可能だ。ただ「ヒーロー」であることにも留意してほしい。実は今回の選考で悩ましかったのはこの部分。物語としては面白いものの、「アンチ」や「ダーク」が勝ちすぎて、「ヒーロー」要素が抜けがちなのだ。そこをどう同居させるか。セレクトされた作品を読みつつ、いろんなアプローチを考えてみて欲しい。 （三村美衣）