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神のはじまり

ひょっとすると、

神って奴は案外簡単になれるものなのかもしれない。







27歳、

俺は神になった。

月曜日から金曜日までの間、

俺はただの会社員をやっている。







それなりの大学を出て機械関連の大手企業に勤めてはいるが、

パッとした功績は残せていない。







俺は仕事が好きではなかった。







決められた仕事を決められた範囲でこなす。







まだ下っ端の俺にクリエイティブな役目は回ってこない。







もう西暦は2030年になろうというのに、

こういった事情は俺が子供の頃とちっとも変わっちゃいないようだ。







そんなことを鬱々と考えながら、

金曜日の仕事が終わり土曜日になる。







そうすると、

俺はようやく神になるのだ。



この試みを始めたのは1ヶ月前、

土曜日の夜だった。






2

昔からパソコン、

取り分けプログラミングの分野に長けていた俺は、

ちょっとした暇つぶしとしてあるプログラムを組んだ。







それは、

自己複製、

つまり自分をコピーし続ける単純なプログラムだった。







「0と1の羅列」で出来たプログラムを「AGCTの羅列」で出来たDNA(遺伝子)に見立て、

DNAが自身の配列を複製して増やすように、

プログラムも自身の配列をコピーして増やすようにした。







(A:アデニン G:グアニン C:シトシン T:チミン



 DNAを構成する4つの塩基。



これらの組み合わせによって、

DNAは無限のバリエーションを持つ)



ちょうど、

元始の地球で生まれた単純な生命、

ひたすら自己分裂型の増殖を続ける微生物、

こいつらのような存在だ。






3

こんなものを作って何をしようかなんて、

俺は何も考えちゃいなかった。







ただ、

思いついたから作ってみた。



それだけのことだ。







しかしこれがきっかけで、

俺は神になったのだ。

4

当たり前のことだが、

自分を延々と複製するプログラムを動かしてみたところで、

何も面白いことは起きなかった。







メモリーの中がそのプログラムでいっぱいになっていくだけ。







1・・・100・・・200・・・1000・・・・



「ファイル数」として表示される数値がただ増え続けるだけだった。







それを眺めているのも最初のうちは楽しかったが、

段々と飽きる。







いい加減うっとうしくなったので、

俺はプログラムを書き変えた。







実際の微生物は、

死ぬ。







同じように、

このプログラムにも「死」を設定してやろう、

そう考えたのだ。






5

メモリーの残量が80%以下になったときに、

「製作日時」の日付が古いプログラムから順に削除する。







そのようなプグラムに書き変えてやったのだ。







つまり、

歳をとったプログラムは死ぬ。







さっそく先ほどのプログラムをすべて削除し、

新たなプログラムを実行してみた。







しばらくすると、

当たり前のことだがファイル数は一定値で動かなくなった。







増えたプログラムの分だけ、

昔のプログラムが消える。







どれもこれも元は1つの同じプログラムなので、

表面上は何の変化もない。







俺はガッカリした。







なんだ、

さっきよりもつまらなくなったじゃないか・・・と。

6

ここで俺は考えた。







地球に最初に誕生した生命、

そいつらもこのプログラムと同じような生き物だったはずだ、

と。







自分と全く同じ個体を複製し続け、

何らかの要因で死んでいく。







そこにおいてこのプログラムとの差は全くない。







それなのに、

そいつらはやがて目まぐるしい進化を遂げ、

とうとう俺のような人間にまで進化した。







俺の作ったプログラムは、

ひたすら一定の量で留まっているだけだ。







この差は一体どこからくるのか。







そうしてたどり着いた答えが、

突然変異だった。







大学の教授曰く、

太陽の出す宇宙線の影響により、

DNAには一定の確率で突然変異が生じるのだそうだ。






7

つまり、

「AGCT」の配列が狂う。







それによって複製前の個体とは違う不良品が生じるのだが、

まれにそれが複製前よりも優れている場合がある。







その個体は、

複製前の個体よりも優位に生存競争を勝ち抜き、

やがて栄える。







これの繰り返しが進化なのだと言う。







その教授の講義は片肘をついて寝ながら聞いていたのだが、

これが思わぬところで役に立った。







プログラムにも、

一定の確率で「0と1」の配列が狂うような設定を加えよう。







そうすれば、

この変化のない複製プログラムにも何らかの変化が生じるに違いない。







自分の心臓がドクンドクンと血流を送るのが聞こえた。

8

そのように、

つまり一定の確率で「0と1」の順序が狂うようにプログラムしてから、

俺はまた前のプログラムを削除した。







そうしてフォルダを空にすると、

新たに組んだプログラムを急いで実行した。







心臓がさらに高鳴った。







すでに時刻は深夜を回り、

辺りは完全な静寂に包まれていた。







だが、

仮に喧騒の中だったとしても、

俺の耳には何も届かなかっただろう。







じっと画面を見つめた。







結果は、

しかし予想とは裏腹に、

先ほどと同じように同種のプログラムが複製されていくだけだった。







俺はガッカリした。







突然変異が生じたプログラムたちは、

エラーを起こしてたちまちのうちに消えていくだけだったのだ。






9

何かが起こる、

そう期待していた分、

俺の落胆は大きかった。







くそ、

と吐き捨てると冷蔵庫に向かい、

缶ビールのフタを開けてグビと飲むと、

そのまま横のベッドに倒れこんだ。







気がつくと、

朝になっていた。

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