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新星ファンタジーコンテスト「お店」
 昔からお店小説というのはちょこちょこと刊行されていたが、坂木司『和菓子のアン』や、大沼紀子『真夜中のパン屋さん』が出た十年ほど前から激増。ショッピングモールのマップみたいにお店ものの小説を紹介するブックガイドを夢想しているうち、気づけばそのモールの全貌が見えないくらいお店もののヴァリエーションは膨れ上がってしまった。  お店というのは、人が物を介して他の人と出会う場所であり、不思議や謎、悲しみや喜びや驚き、そして人生を変えてしまう場所にもなりえる。ただ、さすがに書き手もやり尽くされた感を感じているのか、「お店の前で行き倒れた主人公が、助けてくれたお店で働き人生やり直す系」の作品がほとんどなく、オリジナリティを盛り込もう、捻ろうとして努力している様子が見えて、たいへん楽しませていただいた。バラエティに富んだ8作品をセレクトできたと思うので、ぜひともお読みいただきたい。 (三村美衣)

大賞

本物の魔法使いだった祖母が亡くなり、魔具の修理店を受け継いだラズリ。長い間締め切りにしていた倉庫に風をいれようと扉を開け、掃き掃除をしようと立てかけてあったホウキを手にしたら、なんとホウキが尊大な口調で話し始めた。さらに数日後、ホウキを訪ねてしゃべるモップとデッキブラシがやってくる。さらにその3本の柄付きブラシが食卓を囲んで、わさわさとものを食べるというシュールな絵面が堪えられない。しかも彼らの正体が精霊や付喪神などではなく、とんでもない存在であることが判明するという、たたみかける展開で読者をぐいぐいと話の中に引っ張る。魔法の豊かさや楽しさをユーモラスに描いた魔法ファンタジー。続編希望!

準大賞

王都でジルコフが営む手作り一点ものの武器店に現れた客は、なんと魔王その人だった。ジルコフの腕前を気に入った魔王は、彼が丹精込めて鍛えた武器で2万の兵を屠り、ジルコフを人間の敵である魔王に加担した武器屋に仕立てあげてしまう。魔王の掌の上で転がされ、追い込まれていくジルコフが絶望の底へと落ちていく様子が緊張感ある筆で描かれる。武器屋としてのプライドから、武器を売るということの意味を突きつけ、後味の悪い結末までの流れが上手く、一気呵成に読ませる。

入賞

SNSにアップされた悪口で客足が遠のき弱り果てた獣人たちの商店街。イヌ属で便利屋の柴本に相談された人間のわたしは、イメージアップのためのフリーペーパーの発行を提案、まんまと執筆・編集作業を押しつけられてしまう。ところが、最初に訪ねた中華料理屋は、SNSに書かれた悪口が根も葉もないどころか、遠慮がちに思えるような悲惨な状態だった……。ネットの誹謗中傷による風評被害、手作りの町おこし、獣と人のジェンダー問題など、現代的なテーマをてんこ盛りにした現代ファンタジー。商店街の親父たちをはじめとするキャラが実に生々しく活写されている。

佳作

店舗経営シュミレーションゲームの世界に突然放りこまれてしまった女性が、歪なゲーム世界のなかでショップスタッフとして働く様子が描かれる。デフォルメされた動きや、キャラの表情が見えるような、細やかなゲーム内の日常描写が巧みだ。ちょっと意固地なところのあった主人公がプレイヤーに見守られ、プレイヤーに応えようとすることで、逆に自分に素直に向き合えるようになる心情の変化が微笑ましい。制限の多いなかで、ゲームの内側からシステムを考察し、相関関係を解き明かしていく展開も面白い。
ダンジョンに潜ったまま、地上に戻ってこなかった冒険者。ダンジョンで命を落とした冒険者の登録タグを回収し、家族や恋人などに販売、遺体のない死を受け入れ、心の整理をつけて前に進む後押しをする店。この「お店」の設定がドラマチックで素晴らしい。なぜ店長のアオはこの店をやっているのか、誰がダンジョンからタグを回収してくるのか、アオはその優しさの底に何を抱えているのか。結末が心に沁みる。
たまたま遭遇した魔法を売る店で、火をつける魔法を購入した男が、魔法の存在意義について考えを巡らす。たとえば火をつけるのであればライターを使えばいいし、移動するなら電車に乗ればいい。代替のある魔法にどんな意味があるのだろうか。論理的に魔法を使う/使わない合理性について考え抜いた主人公に対して、店主が最後に投げかける一言が論理性だけでは判じ切れない人間の欲を見透かしているようで、ニヤリとさせられる。
現実に絶望して異世界に転生する道を選んだ主人公。同じように転生してきた人々に、異世界での役職を斡旋する店で働くうちに、幼く無邪気な少年店長に対し、従業員ながら兄のような親近感を抱きはじめ、日々の暮らしに現実世界で得られなかった安らぎを得るのだが……。ほのぼの癒し系の異世界日常ものかと思いきや、国王希望の転生者が現れるや、物語は一変。この店と少年店長の真の姿が明らかになる。どんでん返しの驚きもさることながら、いつか違う未来に辿りつくことを祈るような、一抹の悲しみを含んだ結末が印象に残る。
人が本心を隠すために被る「化けの皮」。誰しもが、知らず知らずのうちに何枚もの皮を被り、気がつくとすっかり着ぶくれ状態になっていたりする。OLの実可は、自分が都合のいい女になっているとわかっていながら、イケメンだが不実な恋人との関係を断つことができず、ずるずると関係を続けていた。そんな彼女に同僚の彩香が教えてくれたのは、「化けの皮」を売り買いする店の存在だった……。その「化けの皮」を妖怪が人間相手に売り買いするというちょっと不気味な設定ながら、取り繕うことで自分らしく生きられなくなっている臆病な女性たちへのエールにもなっている。
募集概要
「新星ファンタジーコンテスト」 ファンタジー書評家「三村美衣」氏とエブリスタが再びタッグを組み、新星のようにきらめくファンタジー小説を発掘します! 受賞作には三村美衣氏からの選評と、個別にアドバイスをお送りします。 あなたのファンタジー作品をより輝かせるため、この機会をぜひお役立てください!
スケジュール
・募集期間:2022年1月5日(水) 12:00:00 ~ 2022年3月6日(日) 27:59:59 ・最終結果発表:2022年5月中旬頃予定
募集テーマ
第5回目のテーマは「お店」です。
・英雄御用達の魔法道具の名店。鍛冶師と魔術師の二人で営んでいたが、ある日魔術師が行方不明に……。 ・深手を負った冒険者がダンジョンの奥で見つけたのは……宿!? なんでこんな場所に!? ・祖父の遺言で質屋を受け継ぐことに。けど店に訪れるのは、人間だけではないようで?
お店の要素を含んでいれば、どのような世界/時代設定のファンタジー小説でも応募可能です。 思わず最後まで一気読みさせられる、そんな引力を持ったファンタジー小説をお待ちしています!
賞
大賞 1作品 ・賞金5万円 ・三村美衣氏からの選評 準大賞 1作品 ・賞金3万円 ・三村美衣氏からの選評 入賞 1作品 ・賞金2万円 ・三村美衣氏からの選評 佳作 数作品 ・三村美衣氏からの選評 ※大賞、準大賞、入賞または佳作(以下、「受賞」という。)の作品はエブリスタ公式SNS等で配信、紹介等される可能性があります。
講評者プロフィール
三村美衣 ファンタジー、SF、ライトノベルの書評家として、長年の経験を持ち、数々のファンタジー・SF小説賞の審査員を歴任。 創元ファンタジイ新人賞の最終選考も務めた。 第一線で活躍する中で、次世代のファンタジー作品の誕生を待ちわびている。 著書『ライトノベル☆めった斬り』(太田書房/共著)、『SFベスト201』(新書館/共著)、『大人だって読みたい少女小説ガイド』(時事通信社/共著)など。 2018年10月~2019年12月、monokakiにてファンタジー小説の具体的な書き方を指南する「新しいファンタジーの教科書」を連載。好評を博した。
応募要項
・ファンタジー要素を含む作品であること。 ・文字数は5,000文字以上。 ・20,000文字までの内容で選考を行います。 ・連載中の作品も応募OK! ・すでに完結している作品、並びにエブリスタ内の公式コンテスト及び他サービス等の投稿コンテストで落選した作品を、募集内容に沿うように再構成してご応募いただくことも可能です。 ※非公開設定している作品は、選考対象外となります。 ※エブリスタ内の公式コンテストや他サービス等に応募中の作品は判明した時点で応募が無効となります。
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コンテストの注意事項(必読)