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第四章 復讐と妄執と #2

 かと言って、矢をいなす動きを見せた少女も尋常では無い。

 カナンの動きを見ていなかった男は、カナン目指して走り出した。

「このぉ!」

 大きく剣を振り上げる。

「だから……なんで私の方に来るかな? 来るのかな?」

 頬を軽く引き攣らせながらも、カナンは一瞬で前進。

 男はいつの間にか懐に入っている、白い服の少女をぼんやりと眺めた。

『おや?』と思った時には視界が暗転。

 受け身もとれずに、背中を地面に打ち付けて昏倒する。

 足払いを入れながらの、払い腰での投げ……と言うより、引き手を離していないので投げ落としたと言ったニュアンスのが近い。

「まっ、待て! 降参だ」

 残った盗賊は、ボーガンを放り出して両手を上げた。

 正しくお手上げと言う意味らしい。

 盗賊達は、子供相手にたかだが一分で壊滅したのだった。

(こいつらが弱すぎるのか? それとも俺が強すぎるのか?)

 あまりに簡単に一蹴した為に、ガルンは自分の実力を計りかねていた。

 歯ごたえが無さすぎる。

 両手を上げた男の前に、ガルンは剣を肩に乗せてゆっくり近づく。

「うわ! 二十点!」

 と、叫ぶカナンの声を聞いて疑問そうに振り返った。

「二十点? 意味が分かんないんだけど」

「人を殺しちゃってるじゃんか!」

 頬を膨らませるカナンを、ガルンは珍妙なものを見るように眺めた。

「……? 襲われたんだ。返り討ちは当然だろ? 奴らも人を殺す気でいるんだ。自身も殺される覚悟は出来てるはずじゃないか」

 ガルンの物言いに、カナンは益々顔を膨らませる。

「だめ駄目ダメ! まぁ~ったく駄目!」

 手でバッテンを作る。

 その仕草は完全な否定を現していた。

「むやみな殺生は駄目だよ! 絶・対・駄・目! 自分より格下なんだから峰打ちにしなさい」

「ダークブレイズは両刃だぞ」

「平で殴るんだよ!剣の平!」

 カナンの目付きが険しい。

 怒ると人の話しを聴かないのをガルンは思い出した。

 フと蒼い狼の言葉も思い出す。

『必要以上の命を刈り取りはしない』

 あの気高い狼のように生きる……。

 今のガルンには無理な相談だった。

 彼の最優先事項は他を顧みない復讐である。

 危険性を持つ物は全て排除し、標的を追い詰め誅殺する。

 その覚悟でガルンは動いているのだ。

「敵は殺さなければ……何時か自分の足を掬われる」

「掬われても私が起こしてあげるから、無慈悲な行いはしないの!」

 カナンは何故かVサインでニッコリ笑みを浮かべた。

2

 無邪気な笑みが心にチクリと突き刺さる。

 ガルンはカナンから視線を逸らした。

 少女の明るさはガルンには眩し過ぎる。

 ダークサイドの住人であった父親の子供とはとても思えない。

 グラハトの好々爺なような状態も、疑問に持つべきだったとガルンは本気で考える。

 彼は世界の敵だった男のはずだ。

「初陣の実力発揮は合格だけど、やっぱり無意味な殺生は駄目だよ! と言う事で二十点!」

「……いや、カナン、それより」

「駄目だよ! 点数は変えないから!」

 何の点数だよ? と本気で思いながらガルンは横の林を指差した。

 納得行かなさそうに首を傾げてから、カナンはその方向に視線を向ける。

 すると、そこには全力で逃げる、ボーガンを投げ出した盗賊の姿があった。

「逃げた……けど」

「いいんじゃない? 一人残ってるし」

 カナンはケロリとした表情で、足元に伸びている投げ飛ばした生き残り一名を見た。

 背中に喝を入れて意識を戻す。

「……?」

 意識を取り戻した盗賊は、渋い顔で背中を摩り出した。

 意識が飛ぶほどの痛みを、ようやく実感したようだ。

「くそ!」

 毒づいてから回りを囲む子供二人に気がつく。

3

 子供相手に手も足も出ないうえ、生殺与奪も握られている状態だ。

 盗賊は唾を吐き捨てると、観念したのか胡座をかいた。

「反省しますか?」

 いきなりのカナンの言葉に盗賊は眉を寄せた。

 反省してますか、ではなく、反省しますかである。

「反省するなら見逃します。ただし、亡くなった仲間の弔いはきっちりすると約束してください」

 カナンの言葉に盗賊だけではなくガルンも眉を寄せた。

 あまりにも馬鹿馬鹿しい質問だ。

 そんなモノは嘘か真実か判断する事は叶わず、その場しのぎでどうとでもなる質問でしかでない。

 百パーセント、反省すると言う回答しか出ないのは明白だ。

「反省するする! 死体もかたすぜ」

 案の定、盗賊は嬉々としてそう答えた。

 ガルンの表情だけが険しくなる。

 その答えにカナンは満面の笑みを浮かべた。

「そうですか! 良かった。これからは心を入れ換えて生きてください」

 本気で言っている笑みに、ガルンは苛立ち募らせる。

 眼の前で三流のこ芝居を見せられた気分だ。

 盗賊はニヤつく顔を、何とかごまかしている様にしか見えない。

 カナンは脳天気なのか馬鹿なのかと、ガルンは本気で考えたくなった。

4

 盗賊はヘラヘラした顔で立ち上がり、その場を立ち去ろうして……その前に突き出された黒い剣を見て凍り付いた。

 ガルンが不敵な笑みを浮かべて眼前に立ちはだかる。

「……ガルン?」

 何か言いたそうなカナンを手で制す。

「カナンは許したようだけど……俺は質問に答えなければ許さないぜ?」

 そう言って恫喝するように睨み据える。

 盗賊は引き攣った笑みを浮かべて固まった。

 ガルンの瞳には、ありありと苛立ちの色が見える。

 黒衣の少年の殺意は、一切薄まってはいないのだ。

「先に言っておく、嘘は言うな。絶対に・だ」

 ガルンの鬼気に押されたのか盗賊はコクコクと頷く。

 顔は冷や汗でビッショリだ。

「顔に傷がある左手の指が二本無い男か、顔に百足の入れ墨をした男、後はやたらと細身のヤサ男を見たことがあるか?」

 ガルンはあの時の事を思い出す。

 三年経っても奴らの顔はハッキリと覚えている。

 復讐すべき怨敵。

 姉の血まみれの顔と共に、奴らの顔は何度も悪夢で見ていたのだ。

 繰り返される壊れた映写機の様に、幾度となくループする死の饗宴。

 子供の心には鋭利な刃物となって、あの時の記憶は鮮明に突き刺さっている。

 奴らの死を以ってでしか この傷みは拭うことが出来ない。

5

 盗賊は視線を右上に泳がせた。

 本気で考えているのか押し黙る。

 ガルンは眼をうっすらと細めた。

 精霊の眼から見ても、存在の揺らぎは見えない。

 少なくとも相手は動揺はしていないようだ。

「顔に百足のタトゥー入れている奴は、最近、闇市で見た気がするな……」

「どこの町だ?」

「シクシャだったと思う」

「近いな」

と、ガルンは呟いて剣を引き抜くと、一振りして刀身に着いた血を払った。

 後は興味無いと言わんばかりに背中に剣をしまうと、落として置いたショルダーバックを拾って歩き出す。

 カナンは腰が抜けたのか、その場に座り込んだままの盗賊をチラチラ見てから、

「弔ってあげてくださいね」

と念を押してから、

「ちょっと待ちなさいよガルン! 何で一人でスタスタ行くかな~! 行っちゃうかな?」

と言って走り出した。

 古代遺跡の多い島国アーゼーイールならば、盗賊としては狩場には事欠かない。この島にいる可能性は非常に高いと言える。

 ガルン達の当面の目的地は港町シクシャに定まった。

6

 港町シクシャ。

 島国アーゼーイールの三つしか無い港町の一つだ。

 アーゼーイールの名物と言えば壮観な景色と古代遺跡だが、グルメの間では海の幸でも有名である。

 シクシャは水揚げ量随一であり、それ目当てで来る客も少なくない。

 遺跡付近と相俟って観光客にとっては最も活用したい港になっていた。

 その為、町の活気も一際高い。

 旅行者のお陰で潤っている町と言えよう。

 しかし、その観光客を狙って盗賊の類が増えており、界隈ではそれが問題になっていた。

「やっぱりでかいよね~」

 カナンはたどり着いたシクシャの西門を見上げて、感嘆の声を上げた。

 旅に出てから五日。

 ようやく二人は目的の港町に到着した。

 森深くに住んでいたカナンは、港町まで来たのは数える程しかない。

 一緒に見上げるガルンに至っては初めての経験だ。

「それじゃ、まず宿屋を探そうか?」

「盗賊ギルドを捜す」

 あんぐりするカナンを余所に、ガルンはそのまま門を潜った。

「何でいきなりそうなるかな? なっちゃうかな?」

 膨れっ面で慌てて後を追う。

「だいたいツテはあるの?」

「怪しい奴を片っ端から絞める」

7

 カナンは立ち止まって頭を押さえた。

 計画性の無さが滲み出ている。

「やれやれだよ。そんな事をしてたら警備兵にしょっぴかれるよ。仕方ないから宿屋は後にして交渉人を雇いに行こう!」

 その言葉を耳にしてガルンは立ち止まった。

「ネゴシエーター? 何でそんなものが必要なんだ」

 疑問の声を聞いて、カナンは心底溜息をつく。

 やれやれと首を左右に振る。

「私たち子供だよ? まともな話を聞き出せると思う?」

「……」

 ガルンはしばし沈黙した。

 カナンの言う事ももっともである。

 ガルンが知りたい最上級情報は仇の居場所だ。

 つまり盗賊の居所である。

 それを最速で知るには盗賊ギルドを探しだし、仇の情報を得る事がベストだと考えていた。

 盗賊ギルドとは縄張りや強奪物売買の斡旋、派閥争い等を取り締まる為のコミュニティーであり、盗賊の情報を得るには最も効率と能率が言いと認識していた。

 しかし、コミュニティー自体何処にあるのか分からず、そんな情報を子供に話す……売る物好きが果たしてどれだけ存在するのか?

 子供と馬鹿にして偽情報を流す可能性も否定出来ない。

 特に裏情報となれば、尚更子供とは無縁な話と言える。

 子供と言うデメリットがハッキリと浮き上がった。

8

「カナンの言い分はもっともだ……。でも、俺達の代わりに情報収集してくれる大人だっているか分からないだろ?」

 ストレートの疑問を投げ掛けられたが、カナンは得意満面に胸を張った。

「こんな事になると思って、親父に色々な町の情報屋の事は聞いているのですよ! 情報屋に聞けば交渉人も斡旋して貰えるはず!」

「……情報屋に聞けるなら交渉人いらなくないか?」

「……」

「……?」

 カナンは胸を張ったまま固まった。

 微妙に顔がピクピクしている。

 根本的な間違いに気がついたようだ。

 大人びた思考が出来ると言っても所詮子供である。

「まあ……。情報屋に奴らの事を聞いて、何も情報が出て来なかったら交渉人は必要にはなるかな?」

 ガルンは視線を外してから、仕方がなさそうにポリポリと頬をかく。

 それを聞いてカナンの顔がパッと明るくなった。

「そうだよね! そうだよね!」

 嬉しそうな笑みを浮かべながら胸を張り直す。

 ガルンは、やれやれと思いながらも顔には出さずに微笑した。

 しかし、その微笑が唐突に固まる。

 振り返ってから大通りの奥に視線が釘付けになった。

「?」

 釣られてカナンもそちらを見て……顔が険しくなる。

9

 大通りを進軍する甲冑姿の一団があった。

 道にいた人々が疎らに道を空けていく。

 白い甲冑の騎馬。

 それが十騎。

 肩には見たこともない羽根と天秤を合わせた様なマークが描かれている。

 マントにもそのマークが描かれているのだが、正面近くのガルン達には見えない。

 その騎馬が颯爽と道を駆け抜ける。

 その先頭を走る騎馬二頭に乗る人間だけが、兜をかぶってはいなかった。

 茶髪の厳つい顔をした壮年な偉丈夫。

 顔中に細かい傷がある。

 もう一人は金髪の長髪を後で束ねた、端正な顔の少年だ。

 年齢はガルンより少し高いぐらであろう。

 すれ違い様に、長髪の少年は何故かチラリとガルンを見つめた。

 ガルンも何故か睨みつける様に見送る。

 カナンの顔にも、何故か警戒心が滲み出ていた。

「気付いたかカナン……」

「うん、先頭の二人、チャクラが開いてる。大男は二つ。男の子は一つ。どちらも訓練でチャクラを開いたタイプじゃない。天性の才能で啓いたタイプ。あんなにプラーナを垂れ流ししていると、チャクラが分かる人間には挑発に近いよ」

 かなり不服ではあるが、チャクラコントロールが出来ないならば、仕方が無いかしら? とカナンは思い直す。

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