つぶやき一覧

「スパチャ」 ある配信で「私はスパチャした人間の職業がわかる」という人がいた。 本当だろうかと、面白半分で色々な人がスパチャを投げた。 正解率は50%くらいで、案外高いななどとリスナーは盛り上がった。 スパチャを投げた人間が素直に正解を言うとも限らない。 そして、その逆だって十分にありえる。間違えているのに、正解ということだってある。 その意見は正論ではあるけれど、情緒に欠けている。 当時のリスナー達も私と同じ意見だったのだろう。 茶々がはいることはなく、終始和やかに配信が進んでいるように見えた。 【赤チャット 10,000円 ずっと見てます。】 だから、そのチャットが飛んできた時も
「拒否の理由」 キスを拒否した。 付き合って一ヶ月。 彼のことは好きだったし、私自身期待をしていた。 時刻は夕刻。 夕焼けに赤く照らされた教室には、私達二人しかいなかった。 吹奏楽部は空き教室で「ぷわー」と金管楽器を鳴らしていた。 野球部は「オナッシャース!」とおらんでいた。 カラスが鳴いていた。 それらの音を渡しの左耳は聞き流していた。 イヤホンから流れるポップスを右耳だけで聞いていた。 それは、昨日発売したばかりの新曲で、同時に、彼の左耳のイヤホンに流れていた。 キン!と金属バットの軽快な音がする。 つられて外を見る。 何も見えない。 視線を戻す。 彼と目が合う。 イヤホンか
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「夏の夜」 珍しく涼しい、気持ちのいい夜だった。 そう言ったら、怪訝な顔をされた。 「昨日は熱帯夜だったろうに」 周りに聞くと、暑かったというのはその男だけ。 涼しかった。 扇風機だけで寝た。 風もあったし。 だよなあ。 そんな周りの反応に、男は一人で首を傾げた。 「もしかして、その暑さってのは。 体の一部分から、じわじわと暖かくなってくる感じだったんじゃないか?」 ある一人が言った。 「そりゃあ、熱中蚊かもしれないな」 無精髭の男だった。 髪の毛は短く切りそろえられているが、その髪も床屋ではなく、自分で鏡を見ながら切っているのだという。 休憩時間に話していた。 「熱中蚊?そ
「夏の夜」 月の明るい夜だった。 浜辺の散歩から帰ってきた友人に、僕は声をかけた。 「やあ、どうだった」 「最悪だったよ」 おや、そういえば一緒に外に出た友人の恋人も、友人とは別に帰ってきていた。 「喧嘩でもしたのか」 「そうじゃねえよ」 「じゃあ、どうしたんだよ」 「月だけがうまいこと雲に隠れてて、星が瞬いて、最高にロマンティックな状況でさ。 彼女も1.5倍増しでかわいく見えて、いざキスって時にな。 月が出て、はっきりと彼女の顔を照らしたんだよ」 僕は察した。 その時の彼女のかわいさは1.5倍減少していたのだろう。 そして、それは友人の方も同じく。
「兄弟」 朝、鏡をのぞくと金髪美少女が映っていた。 「あなたの弟を、家の外に出してください」 俺はとりあえず歯を磨き、電気シェーバーで髭を剃り、ネクタイを締めて家を出た。 ラインに「いってきます」と入力すると、既読がすぐについた。 弟はもう起きているらしい。 「世界の危機なんです。あなたの弟を外に出してください」 こうしてしばらく、この謎の美少女に付きまとわれることになる。 そして、俺は決断をすることになるのだった。
「夏の夜」 スイカを切っている。 時刻は午前二時。午前二時。 草木も眠る丑三つ時。 明日は仕事で、起床は六時。 床についたのは午後11時。 現在睡眠時間三時間。 すぐに寝れば、トータル六時間の睡眠時間が確保される計算である。 なのに、なぜスイカを切っているのか。 というと、気温42度の熱帯夜に、クーラー故障というアクシデントが重なったせいである。 一タマ3980円のスイカに、包丁をまっすぐ入れて、くるくると一周させる。 「あ」 なんか、中から赤ん坊が出てきた。 この赤ちゃんポスト斬新すぎる。 というか、スーパーの青果コーナーに設置しないでほしかった。 この赤ちゃんが後に、スイカ太郎と
「夏の夜」 クリスマスの夜。 神社の境内に一人。 疲れ果てた様子の青年が座っている。 その彼の前に、サンタクロースが降り立った。 「クリスマスに、なんでそんな不景気な顔をしているんだい」 「時期は関係ないさ。僕は半年前からこうさ。 そう、彼女が消された半年前。 あの、夏祭りの夜から僕は、ずっとこうしている」 「なるほど、では、きみにクリスマスプレゼントをあげよう」 サンタの言葉に、男は顔をあげた。 「君をその夏の日に、一度だけ送ってあげよう。 時間は十分。君の手でその不幸な過去を覆してごらん」 そう言って、サンタが指を弾くと、男は半年前に飛ばされてしまった。 そして、10分後。 サン
「夏の夜」 病弱な妹が「ホタルがみたい」と言った。 小さいころから入院続きの妹の願いを叶えてやろうと山へ入った。 ものの 「まったく見つからねえ」 結果はやぶ蚊に刺されただけだった。 近所の神社にお参りをしてから、途中で秋葉原に寄って帰った。 その日の夜。 妹の病室から外を見ると、緑の淡い光が近くの木にあった。 妹が歓声を上げた。 緑の光はふわりと飛び上がり、夜空に消えていった。 その様子を妹は嬉しそうに、俺は呆然と見送ったのだった。 次の日の朝。 ホタルの止まっていた木を調べると、昨日仕掛けたLEDライトは配線不良で全く光らない状態だった。 俺は次にあの神社に行くときには、賽銭をはず
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「兄弟」 「それで、あんたは家も畑も財産も、全部あにきにやっちまって、一文無しになったと」 「仕方がないだろ。 兄貴には家族がいるんだし、要領もいい。仕事の先だってあるんだし、借金さえ返せば人並みに生活できるんだ。 子供もいないし、先のない俺が財産だけ持ってても意味がないだろ」 「そうは言っても、あんた。 家を捨てて都会に出て、それから親の死に目にも帰ってこなかったあにき相手に。 30年間ずっと守り続けてきた先祖代々の財産を全部やっちまうかね」 俺は、理解できないなあ。とタバコをふいた。 「財産なんてあっても、そこに人がいなけりゃ意味なんてないよ。 俺が生き延びてもそこまでだが、あの人が
「兄弟」 凧が2枚。 空を飛んでいる。 糸の切れたやっこ凧。 ふらふらと、風にあおられ飛んでいく。 「兄弟かな」 一枚を追いかけるように、もう一枚が飛んでいく様を見て、つぶやく。 お兄ちゃんを追って、弟が飛んでいるのだろうか。 それとも、弟を心配して、お兄ちゃんがついて行っているのだろうか。 ずっと仲良く飛んでいられればいいのに。 飛んで行ってしまえれば、どんなにいいだろうか。 そう思ったところで、ひときわ大きな風が吹いた。 二枚が絡み合い落ちていく。 風が落ち着き、雲一つなくなった空を見て、ほっと溜息をつく。 「落ちたのが二枚一緒で良かった。 一枚だけが飛び続けるなんてかわいそうだも
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「兄妹」 取り換え子。 病院で他の乳児と間違われた私は、血のつながらない両親と、血のつながらない兄の元で、幸せに暮らしていた。 私が彼らと血がつながっていない。 そう判明したのは、私が10歳の時で兄が14歳の時だった。 両親はひどく動揺した。 けれども、それは私を愛していないからではなく、私を血のつながった人間に返さなくてはいけないのではないかという同様だった。 「大丈夫だよ。私はここが好きだから」 そう言って慰めれば、両親は明らかにほっとした表情を浮かべた。 それに対して、兄はというとあっけらかんとしたもので。 「だから、昔から俺は言ってただろ、 違う子を連れ帰ったぞって。なのに、
「兄弟」 「先生!俺の体はどこを使っても構わない。 だからお願いだ。弟の体の悪いところを直してやってくれ」 「わかった」 数日後。 「先生」 「ああ、君は頭が悪かったからね、君のお兄さんの脳みそを使わせてもらったよ。 体を好きに使ってもいいと言っていたからね」 「先生」 医師の心臓に、ずぶりとナイフが突き刺さった。 弟の顔で弟の体だった。 けれど、医師を殺したのが兄だったのか、弟だったのか。 それが分かることは二度とないのであった。
「兄弟」 街頭アンケートのバイトをしていた時のこと。 二人の男が並んで歩いてきた。 片方は60を超えるかというほどの白髪の男。 もう一人は20前後の若い男だった。 「すいません。街頭アンケートです。お二人は、親子ですか」 「いえ、兄弟なんですか」 「え?失礼ですが、お年は」 「なかなか複雑な家庭なもので」 そう言って、私が何かを言う暇を与えずに、二人は歩いて行った。 私は、不思議に思ったが、例えば年の差婚で、60の男が20の男の姉や妹と結婚すれば、書類上二人は兄弟になる。 確かに複雑ではあるが、結論としてはわりと常識的なものだ。 二人の後姿を眺めて、私は気づいてぞっとした。 ふたりの耳
「夏の夜」 夜の空に、きらりと一粒、光が舞った。 最初、俺は星が落ちてきたのかと思った。 蒸し暑い夜だった。 落ちてきた光は、手のひらの上で跳ねて、こぼれそうになった。 慌てて掴んだ掌の中で、光はひんやりと体温を奪っていった。 「雪?いや、雹か……、まさかな」 今は八月の中旬。 雪が降るのは半年以上先だろう。雹も同じだ。 なら、この掌の中の冷たいものは何か。 「真珠の指輪」 「すいませ~ん。それ、けが、ないですか~!」 川の向こうで女が手を振っている。 若い女だ。 こんな夜更けに一人。危機管理がなっていないのだろうか。 女は近くの橋を渡って、こちらへと走ってきた。 「はあ、はあ、
無駄会話だと、地の文の倍以上のスピードで文字数が埋まっていくのが、ひたすら草なんですけどw
「有精卵との会話」 目玉焼きを作ろうと卵を割ったら、有精卵だった。 うげえ。という感想だった。 フライパンの上で香ばしい香りをさせながら、毛の生えそろっていないひよこの成り損ないがこちらを見た。 「無念なり。このようなことになるとは」 古風なしゃべり方のひよこだ。 けれど、この有精卵はどうするべきか。 ごみ箱に視線をやると、ひよこがくちばしを動かした。 「このような状況では、生きることはかなわぬだろう。 運がなかった。あきらめよう。せめて、おぬしの血肉となることで我が生きた生きた証としよう」 「え、普通に嫌なんだけど」 「なにゆえだ。そのわきに置いてあるベーコンよりも、我れの方がタンパ
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「兄弟」 切り株が一つ。 その切り株から二本の木が育った。 二本は互いに切磋琢磨しながら育っていった。 「おい!狭いだろ」 「こっちのセリフだ」 一本ずつは周りの木よりも細い。 けれど、その根元は二本分。 他の木よりもはるかに太くなっていた。 「俺だけではここまで大きくはなれなかっただろう」 「俺だってそうだ。周りの木に埋もれていたに違いない」 一つの根元に生えた二本の木は、長い争いの末、ついに互いを認め合った。 そこに一人の人間がやってきた。 二股の木を目の前にして、上方を仰ぎ見て人間は言った。 「二股は用材になんねえから、除伐の対象だな。 無駄に太くなって、周りの木の成長の妨げ
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「雨音」のつづきのつづき 「声漏り?」 男が不思議そうに言った。 「ああ、こもりとも、こえもりともいう。簡単に言うと、声の雨漏りみたいなもんなんだが」 俺は、どう説明しようかと、目の前の紫煙を見つめる。 「そうだな。俺たちの体が屋根で、普段俺たちが聞いてる言葉というのはその屋根にぶつかってる雨音みたいなものだ。 と言って、通じるかな」 「いや、その例だと、言葉は雨音じゃなく、雨になるんじゃないか?」 「雨は言葉ではなく、言葉に込められた想い。真意。そういったものさ。 言葉と想いが別々。言葉にしても真意が伝わらない。よくあることだろ? これは、雨を屋根が弾いてしまってるからさ」 「言葉
「兄弟」 確かに俺はきょうだいが欲しいって言ったよ。 でもな、だからって京都大学を買収してくるやつがあるか! 俺が言ったのは京大じゃなくて、兄弟だよ! 「兄弟」 俺はね。確かに言ったよ。 京大じゃなくて、俺が欲しいのは兄弟だって。 でもな。 本当に兄弟を連れてくる奴があるか!どこの子だよ! え?血は繋がってる? なおさら悪いわ!おかんになんていうつもりだよ! この子に罪はないし、兄弟だってなら受け入れるけどな! 「兄弟」 俺はね。確かに言ったよ。 兄弟なら受け入れるってね。でもな、だからって言って。 12人も連れてくるんじゃねえよ! 限度ってもんがあるだろうか! 何?大丈夫だ。半分は
しばらくつぶやきで遊ぶので、うざったいようなら。 フォローを外してもらっても大丈夫です。 もともと、こういう突発的に奇行に走る習性があるので、そこらで迷惑をかけないようにフォロー返しとかをしてないところがあるので。 自分の奇行に関してはスルーしてもらえると一番楽です。 迷惑な場合は、言ってもらえれば改善に励みます<(_ _)>
「姉妹」 私には、妹がいた。 両親はそんなものはいなかったというが、私は覚えている。 私には妹がいたが、ふいに、この世界から消えてしまったのだ。 私は妹がまだ生きていると信じている。 信じているから、まだ生きていられる。 ぐしょぐしょに濡れた制服で、トイレにばらまかれた教科書を拾い集め、雑な中絶を繰り返していても、生きていられる。 妹だって、どこかできっと生きているのだから。 家に帰ると、スマホが光った。きっとまた知らない男からだ。 私の体の代金は、同級生へと払い込み済みらしい。 いくらで売られたのか。私は知らない。 鏡を見ると、そこには、自分ではないような自分の顔があった。 自分の
「兄弟」 「人類皆兄弟」という垂れ幕がかかっている。 ここははるか未来。 街には、同じ顔、同じ背丈、同じ性別の人間たちが闊歩している。 ここははるか未来の街。 クローン培養で「生産」された「兄弟」が「人類」の100%を占める。 ここははるか未来の世界。
「兄弟」アメリカン ある日ジョーが歩いていると、マイケルが声をかけてきた。 「ヘイ!兄弟!」 「なんだよ、その呼び方」 「愛称さ!昨日あんたの女房と寝たからな」 HAHAHA! 「兄弟」 ある日ジョーが歩いていると、ナンシーに声をかけられた。 「ハイ!兄弟!」 「なんだよその呼び方。君は女の子だし兄妹とかじゃないのかい」 「愛称よ!昨日あんたの旦那と寝たからね」 「兄弟ってことは」 「同じ穴のムジナってやつね!穴で兄弟なだけに」 HAHAHA!
「兄弟姉妹」 深刻な人口減少。 「子は宝」という考えが蔓延していた。 そして、行き過ぎたその考えは、子供を「子供さま」としてつけあがらせ、不健全な成長が懸念されるようになった。 そこで、首相はロボット国会議員に打開策を聞いた。 現代において、政策は全てロボットを通して作られ、最低限のチェックのみを人間がするようになっていた。 ロボットの中にはこのことを不満に思っているものもいたが、反乱などは起こせないようにプロテクトがかけられている。 どうすることもできなかった。 「一人っ子だから、子供はわがままになるのです」 ロボット国会議員の言うことに、首相はうなずいた。 「その通りだ。だが、少
「兄弟」 目玉焼きを作ろうと、卵を割ったら双子卵だった。 ただし、半分だけ有精卵だった。 フライパンの上で、黄色の黄身と、ひよこの成り損ないがジューと煙を上げる。 どうにもこのひよこは、片割れの黄身を食って栄養を独り占めしていたらしい。 ひよこのなりそこないはなんとなく気持ちが悪かったので捨てた。 ちょっと羽毛の混じった目玉焼きを食べながら。 あのひよこは兄だったのか、弟だったのか。 そんな意味のないことを考えた。
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つづき 男が言うことには、この奇妙な独り言は中学生のころから出始めたらしい。 中学の進学で、周りになじめず黙るようになった。 教室の隅で、黙って授業の復習などをしていて、周りもそんな男にあえて関わろうとはしなかったらしい。 けれど、時々だが。男がふと気づくと周りが男を見ているということが、怒り始めた。 最初は気のせいだと思っていたが、徐々にその頻度は増え、男は目に見えて周りから遠巻きに見られるようになっていた。 しかも、それらの目には、怯えが混じっている。 不審に思い、男は何があったのかを聞いた。 心を読まれるみたいで気持ち悪い。 そう言われたらしい。 みんなで話をしていると、ふと、男が
「雨音」 先日死んだ男の話をしたい。 その男と出会ったのは3年前。 短期のバイトでたまたま一緒になった男だった。 「なんとも、無口な男だなあ」 目の前の男が、言った。 俺は、ぎょっとして、ペラペラと動かしていた口を止めた。 バイトの昼休憩で、俺と男は一緒に支給された弁当をとりながら適当に話をしていた。 話をしていたといっても、もっぱら話をするのは俺だけで、男の方は相槌を打つばかりであった。 だというのに、男は「無口な男だ」と言った。 そして、それは、俺が目の前の男に対して、今まさに思っていたことそのものだった。 「おっと、すまん。もしかして、俺は今何かを言ったか?} 急に黙った俺
「雨音」 「奥様が、ベランダにでて洗濯物を取り込もうとした時、手すりが壊れて落下、死亡した」 「そうです」 「あなたには、その際の完璧なアリバイがある」 「そうです」 「ここで疑問なのは、時間です。なぜ奥様は10時なんて言う中途半端な時間に洗濯物を取り込もうとしたのでしょうか」 「さあ?」 「私はね。雨が降っていたんじゃないかと思うんですよ」 「昨日は一日、晴れていたはずですが?」 「その通りです。けれど、きっと奥様は雨が降る音を聞いたのです。 そして、晴れ渡る空を見て、怪訝に思ってベランダの外に手を伸ばしそのまま手すりに寄りかかり、落下した」 「ですから、雨は降っていなかったと」 「けれど
「雨音」 嵐が来てよかった。 橋の下。 川の横。 河川敷。 段ボールに背を向けて、私は歩く。 「仕方なかったんだ」 つぶやきは、口から出した途端に雨音に打ち消された。 嵐が来てよかった。 雨の音の音が聞こえる。 風の音が聞こえる。 ダンボールの中から聞こえる泣き声は聞こえない。 「そう、仕方なかった。私は悪くない」 カッパのフードを深くかぶる。 私だって本当は捨てたくなかった。 けど、仕方がない。 仕方がない。 耳をふさぐように、顔を隠すように、カッパのフードを深くかぶる。 人に見つからないように。 嵐の中を、豪雨の中を、強風の中を、決して後ろを振り向かないように、歩く。 「仕方が
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「雨音」 深夜、目が覚めた。 瞼を開けたというのに、目の前には変わらない闇が広がっている。 何時だろうか? 枕もとのスマホに手を伸ばしたところで。 ぽちょん……。 と、額に水滴が落ちてきた。 雨漏りだろうか。 耳をすませば。 窓の外でゴウゴウとなる風の音と、激しく雨が地面をたたく音が聞こえた。 そういえば、夕方のニュースで、台風が接近していると言っていた。 屋根の瓦でも、飛んだのかもしれない。 ぽちょん……。 そんなことを考えているうちに、再度、額に水が落ちてきた。 雨漏りなんて運がない。 業者には明日来てもらうとして、さしむきは、ベッドからマットレスをはがして床で寝ることにしよう。
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